歴史が浅いようでいて、実はさまざまな過去や豊かなストーリーを忍ばせているロサンゼルス。そうしたロサンゼルスの姿は、ときにフィクションの中で現実以上にビビッドに見えてきます。
この街にもっとドキドキする映画と小説をご紹介します!
ロサンゼルスを舞台とした映画については「映画やドラマの撮影に使われたロサンゼルスのロケ地」も併せてご覧ください!
映画のプロが選ぶ7選 宮尾大輔さんの ロサンゼルスを知る映画
映画のことなら、まずこの人に聞きたい。ユニークな視点で、日本のみならず世界で注目を集める、UCサンディエゴ教授&映画史研究者の宮尾大輔さんに、ロサンゼルスの姿を浮かび上がらせる作品を厳選していただきました。
1970年生まれ。東京大学卒業後、ニューヨーク大学大学院映画学部博士課程修了。オレゴン大学東アジア言語文学部准教授を経て、2014年よりUCサンディエゴで教鞭を執っている。著書に『映画はネコであるーはじめてのシネマ・スタディーズ』『The Aesthetics Shadow: Lighting andJapanese Cinema』他。
ロサンゼルスの街は、横へ横へとどこまでも広がっているように感じられる。そして、時折現れる高層ビルや送電線が空に向かって縦に伸びていくのが、強烈な印象を残す。
この横と縦の街のイメージは、 ロサンゼルスの発展の歴史と関係があるのかもしれない。広大な砂漠にできたロサンゼルスの街は、自動車での移動が基本で、そのための道路が水平に広がっていった。街の発展を支えた産業は三つ。石油産業、航空機産業、そして映画産業である。地中深くに眠る石油は、巨大な掘削機に掘り起こされ、空中へ垂直に吹き上がる。航空機は空高く舞い上がり、映画はさらに高く、数多くの星スターを生み出す。
ロサンゼルスを舞台とする映画の多くは、街とそこに生きる人々を描くとき、意識的であるにせよ、そうでないにせよ、こうした横と縦のイメージを強調してきたように見える。そうした映画を何本か紹介したい。
1. 『理由なき反抗』(Rebel Without a Cause, 1955)
1本目の映画は、『理由なき反抗』(RebelWithout a Cause, 1955)である。冒頭、ジェームズ・ディーンが演じる高校生のジムは、酔って地面に横になり、ゼンマイ仕掛けのおもちゃをもてあそぶ。泥酔の原因は、母に気兼ねする弱い父と、ことあるごとに転校生の自分を腰抜け呼ばわりする同級生たちだ。シネマスコープの極端に横長の画面が、うつ伏せになったジムと、その横に広がる地面を強調する。抑圧されたジムが夢を広げるのは上空である。ハリウッド山の頂に立つグリフィス天文台まで、上へ上へと車を走らせ、プラネタリウムでは、さらに高い宇宙へと「行けたらいいな」とつぶやくジム。が、周りがそうはさせない。同級生のナイフで彼の車はパンクさせられて地面に沈み、その同級生と挑戦した「チキン・ラン」では、ジムは車から飛び出して、また地面に突っ伏してしまう。
2. 『スピード』(Speed, 1994)
ジムをいじめる同級生の一人を演じたのは、デニス・ホッパー。その彼がテロリストを演じた映画『スピード』(Speed, 1994)は、ロサンゼルスの街の広がりと高さとを最大限に利用したノンストップ・アクションである。映画は、高層ビルのエレベーターが、地上41階から地下3階までまっすぐに下降するのを映し出す長いショットで幕を開ける(ロケに使われたのは、ダウンタウン・ロサンゼルスにあるガス・カンパニー・タワー)。このエレベーターを使った「縦」のテロに失敗した犯人は、路線バスを使った「横」のテロを起こす。ベニスビーチ発のバスに仕掛けられた爆弾は、時速50マイルを超えると作動し、速度がこれを下回ると爆発する。バスは走り続けなければならない。広がり続けるロサンゼルスの高速道路に、未完成の途切れた箇所があったとしても(当時工事中だったセンチュリー・フリーウェイ)。最後は、「縦」と「横」との合体テロ、地下鉄。ブレーキがかからずに猛スピードで走り続ける列車は、ハリウッドのチャイニーズ・シアターの前で地上に飛び出す!
3. 『チャーリー』(Chaplin, 1992)
スターの手形・足形で有名なチャイニーズ・シアターは、1927年にオープン。当時の映画は、異国を舞台にしたスペクタクルが人気だったが、それを上映する映画館も中東やアジアを模したようなエキゾチックな建築が流行していた。スターたちは、地上からファンタジーの世界へまで飛ひしょう翔していたのだ。映画『チャーリー』(Chaplin, 1992)は、こうした草創期のハリウッドを描く。チャップリン(ロバート・ダウニーJr.)は、どんよりと狭苦しいロンドンを離れ、陽がさんさんと照りつける南カリフォルニアの大地に降り立つ。横への広がりと明るさとが際立つ。そもそも、アメリカの最初の映画人たちは、撮影に不可欠な光と広大な空間を求めてハリウッドにやってきたのだった。ハリウッドがいくつものスタジオが屹立する産業都市に変貌し、数多くの者たちがスターへの階段を駆け上って行くのに時間はかからなかった。大スターとなったチャップリンは、1923年に設置された高さ14メートルのハリウッドサインからロサンゼルスの街を見下ろす。
4. 『サンセット大通り』(Sunset Boulevard, 1950)
一方、多くのスターがその地位から転落するのを見届けたのもロサンゼルスの街である。映画『サンセット大通り』(Sunset Boulevard, 1950) のクライマックスでは、自分が今もスターだと信じるノーマ(サイレント映画の大スターだったグロリア・スワンソン)は、大げさな演技をしながら屋敷の階段を下りて来る(Wilshire Blvd.とIrving Blvd.の角にあったその屋敷の跡には、現在、石油王J.P.ゲッティの建てたハーバー・ビルが立つ)。スローモーションの画面が、大スターの醜悪さと凋落とを残酷なまでに強調する。
5. 『深夜の告白』(Double Indemnity, 1944)
映画『サンセット大通り』が製作された1950年前後は、「フィルム・ノワール」と後に呼ばれる犯罪映画のジャンルが生まれた時代である。第二次大戦後の好況の中で、不相応に成り上がることを目指した男たちが苦悩の末挫折し、地に墜ちるというのが、代表的な物語のパターンだった。コントラストの強い照明が、日中の光と正反対の、ロサンゼルスの広く深い夜の闇を強調した。同じくビリー・ワイルダーが監督した映画『深夜の告白』(Double Indemnity, 1944)では、真面目な保険勧誘員が、ハリウッドヒルの丘の上から街を見下ろす豪邸(Quebec Dr.に今も立つ)で、高い階段の上に現れる美貌の人妻に惚ほれてしまい、彼女にそそのかされて保険金目当ての殺人に手を染める。後は転落あるのみ。
6. 『ブレードランナー』(Blade Runner,1982)
SF版フィルム・ノワール『ブレードランナー』(Blade Runner,1982)でも、捜査官デッカード(ハリソン・フォード)は、恋してはいけない人造人間に恋してしまい、苦悩する。ダウンタウン・ロサンゼルスのブラッドベリー・ビルでの格闘など、未来都市ロサンゼルスの高さが強調され、デッカードは何度も転落の危機に陥る。
※35年ぶりに続編映画『ブレードランナー2049』(Blade Runner 2049, 2017)の公開が決定しました。
7. 『マルホランド・ドライブ』(Mulholland Drive, 2001)
最後に1本、ロサンゼルスの横と縦のイメージを混乱させる映画を挙げておきたい。デビッド・リンチ監督の映画『マルホランド・ドライブ』(Mulholland Drive, 2001)。一見、スターをめざしてロサンゼルスにやってきた若い女優(ナオミ・ワッツ)の成功と転落の物語で、横と縦のイメージにあてはまりそうなのだが、リタという謎の女が登場し、事態は錯綜し始める。マルホランド・ドライブを走っていると、高度や方角がよくわからなくなってくるように…。
文学のプロが選ぶ6選 藤井光さんのロサンゼルス文学案内
今、最も注目されるアメリカ文学翻訳者の一人である、同志社大学准教授、藤井光さんにロサンゼルスを知る小説を選んでいただきました。エッジの効いた翻訳で本好きから絶大な支持を集める藤井さんの6冊は、やっぱり面白さ抜群!
1980年生まれ。北海道大学大学院博士課程修了後、同志社大学文学部英文学科助教を経て、2014年より同大准教授。訳書に13年第10回本屋大賞翻訳小説部門第1位に選ばれた『タイガーズ・ワイフ』(テア・オブレヒト著)、『かつては岸』(ポール・ユーン著)他。今、最も注目されるアメリカ文学翻訳者の一人。08年にはロサンゼルスに暮らしたことも。
この街は常に「いま」を生きている。それが、ロサンゼルスという都市について指摘される特徴です。
人工都市であるうえに、季節の変化があまり感じられず、しかも加齢を拒否するようなハリウッドスターの地でもあるという条件のせいか、ロサンゼルスはしばしば、過去と未来が存在せず、「いま」が永遠に続いていく街というイメージで語られます。それと対峙するようにして、 ロサンゼルスを描く文学は、現在だけでは完結しない世界を描き出そうとしてきました。
ロサンゼルスが舞台となる文学の定番として、まず挙げられるのは「ロサンゼルスノワール」という犯罪ミステリー小説ではないでしょうか。それを代表する作家は、『長いお別れ』や『大いなる眠り』などを代表作とするレイモンド・チャンドラーです(インターネットで”Raymond Chandler’s LA”というキーワードで画像検索すれば、チャンドラー作品に出てくるロサンゼルスの名所を示した地図画像を見ることもできます)。
現役の作家としては、『LAコンフィデンシャル』を含む「暗黒のLA四部作」で知られるジェイムズ・エルロイがいます。こうした小説では、アメリカン・ドリームを求めて、自分の過去から縁を切るようにロサンゼルスにやってきた登場人物たちは、現在のみに生きようとしますが、それを貫徹させることはできずに転落してしまいます。ロサンゼルスが「いま」に生きる街だからこそ、最終的には過去の素性や犯罪が暴かれて破滅していく登場人物のドラマはいっそう際立つのです。
ですから、20世紀のロサンゼルス文学を代表するアイコンが、矛盾と破滅を体現したような作家、チャールズ・ブコウスキー(代表作に『パルプ』などがあります)なのも、ある意味では当然のことかもしれません。
21世紀に入っても、ロサンゼルス文学は引き続きこの街の「いま」と対峙してきました。そんな現代のロサンゼルス小説を彩るテーマが四つあります。ノワール、災害、映画産業、移民。ロサンゼルス名物ともいうべきこの四つの視点から語られる小説は、この街に対するイメージを鮮やかに打ち砕いてくれます。
1. ノワール&移民:ニーナ・ルヴォワル『ある日系人の肖像』
ロサンゼルスは日系移民の中心地でしたから、日系市民たち(といっても一世は日本生まれであるため、当時の合衆国の移民法によって帰化することはできませんでした)の姿を描く小説には事欠きません。その21世紀版と言えるのが、東京生まれ、 ロサンゼルス育ちの日系作家ルヴォワルによる『ある日系人の肖像』(原題『Southland』)です。
現代のロサンゼルスに暮らす日系四世のジャッキー・イシダは、亡くなった祖父の遺言に登場する謎の少年、「カーティス」とは誰なのかを調べ始めます。やがて、祖父が日系二世として第二次世界大戦中にマンザナー強制収容所にいたこと、そこからアメリカ軍に志願し、日系人によって構成される「442部隊」に従軍したことなどが明らかになります。そして戦後、祖父はロサンゼルスに戻って店を経営し、やがて、黒人少年のカーティスを雇うのですが、1965年、ワッツの人種暴動が発生してしまいます……。祖父の人生をたどっていくジャッキーの調査は、やがて一つの犯罪事件を明らかにします。その道のりからは、ロサンゼルスの20世紀史がパノラマのように広がります。
2. 移民:Karen Tei Yamashita『The Tropic of Orange』
同じく日系作家の描くパノラマでも、20世紀末のロサンゼルスを違う形で俯瞰するような世界を見せてくれるのが、カレン・テイ・ヤマシタが作り上げたこの群像劇です。ロサンゼルスでの一週間、日系のテレビ番組制作者エミがニュースを追いかけ、その祖父マンザナー・ムラカミ(名前の通り、強制収容所経験者です)はフリーウェイ沿いで車の騒音を交響曲に見立てて指揮棒を振り、また別のところでは、メキシコから国境を越えて臓器が密輸されてくる……時代も国境も越えて、実に多様な世界が重ね書きされるロサンゼルスの地図を、登場人物から登場人物に飛び移るようにして、七日間のドラマとして凝縮した力作です。
3. 移民:Sesshu Foster『Atomik Aztex』
日系作家がまったく予想外の方向に突き進んだ結果生まれたのが、セッシュウ・フォスターによるこの怪作です。ヒスパニック系が人口の大半を占めるイーストロサンゼルスに暮らすフォスターは、想像力をひたすら「アステカ化」させた小説を作り上げてみせました。メキシコから移民してきた男センソンが、イーストロサンゼルスにある食肉加工工場で過酷な労働条件に耐えつつ日々を過ごす物語と聞けば、いかにも現実味のある設定かもしれません。ところがそれと並行して語られるのは、スペインによる植民地化を撃退して強大な国家になったアステカ社会主義帝国に暮らす、センソントリという男、つまりはセンソンの分身の物語なのです。時は1942年、ナチス・ドイツの侵略を受けたソ連にアステカから援軍が派遣され、センソントリはその指揮をとることになります。現代アメリカの大都市と架空のアステカ帝国、その二つが、互いの分身となって交錯する、なんとも妖しげな二重の世界は、ロサンゼルスしか生み出せない幻想なのかもしれません。
4. 災害:スティーヴ・エリクソン『エクスタシーの湖』
災害の物語の最新版、ということになるでしょうか。火事、宇宙人、果ては火山の噴火……と、想像のなかのロサンゼルスは多種多様な方法で破壊されてきましたが、ブコウスキー以降のロサンゼルス文学を代表する作家エリクソンの『エクスタシーの湖』は、街の西側に突如出現した湖によって、多くの地区が水没してしまいます。その湖で幼い息子を見失ってしまった女性が、我が子を取り戻そうとする旅は、エリクソンの奔放な想像力により、21世紀の行方をかけた探求の旅となっていきます。天安門事件や同時多発テロ事件、そして未来の内戦を経て、今世紀の行方はロサンゼルスで決まることになります。本作以外にも、エリクソンは『ルビコン・ビーチ』(1986)や『アムニジアスコープ』(1996)など、ロサンゼルスを舞台とした忘れがたい作品を多く発表しています。
5. 移民:サルバドール・プラセンシア『紙の民』
この小説は、紙を折って一人の女性が作られて世界に旅立っていく、という摩訶不思議なプロローグから始まります。そして、メキシコから移民してきた父と娘が、ロサンゼルスのすぐそばにあるエルモンテという町で暮らし始める物語に続いていきます。やがて父は、自分の人生を誰かが見下ろして操っているという感覚を抱くようになります。その正体はなんと、はるか上空に浮かぶ土星でした。こうして、移民たちと土星の間で、奇妙な戦争の火蓋が切って落とされます。やがて、土星の正体が明らかになるにつれて、物語はほろ苦いラブストーリーに姿を変えていきます。実験的であると同時に日常的でもあり、現代的であると同時に神話的な、奇妙な世界がそこに待っています。
6. 映画産業:Kate Braverman『Frantic Transmissions to and from Los Angeles』
ケイト・ブレイヴァーマンは1970年代後半から活動している息の長い作家です。小説家であると同時に詩人でもあり、ロサンゼルスのおぼろげな風景を詩的に描くことにかけては、この作家の右に出る人はいません(邦訳が出ていないのが残念です)。そんな彼女が、ロサンゼルスで過ごした自らの半生を総括するようにして発表した回顧録が本書です。ただし、単なる自伝とは違い、人生の折々にサンタモニカの桟橋で再会する三人の匿名女性の物語など、フィクションとノンフィクションが融合したような不思議な世界を味わうことができます。そのハイライトはなんといっても、マリリン・モンローの架空のインタビューという章でしょうか。彼女は現在のスターという地位を「偶然の産物」と語り、また違う将来の自身を夢見る発言をしています。ここでブレイヴァーマンは、モンローの口を借りて、ロサンゼルスそのものにみずからを語らせ、「いま」とは違う街の姿を想像しようとしています。
ロサンゼルスという街は、都市としての歴史の浅さを逆手に取るようにして、きらびやかな「いま」を演出してきました。その土壌から生まれる作家たちの小説もまた、一筋縄ではいかない味わいのものばかりです。書店で少し目を凝らしてみるだけで、みなさんも自分だけのロサンゼルス小説と出会えるかもしれません。
編集部選 ロサンゼルスがもっと身近になる!映画と小説 8選
数え切れないほどあるロサンゼルスを舞台にした映画と小説から、近年話題になったものを中心に、読み終わった後、観終わった後にロサンゼルスがもっと身近に感じられる作品を編集部がピックアップ。
1. 映画:『ビッグ・リボウスキ』
ロサンゼルスのビーチあたりに、不安にかられるほどゆったり流れるバイブを体感できる、コーエン兄弟監督のコメディー映画。同姓同名の大富豪と間違えられ、家の絨毯にチンピラに小用を足されてしまうリボウスキことデュード。それを発端に狂言誘拐に巻き込まれ…。複雑な状況を、かったるく、責任感のなさそうなデュードをはじめとした登場人物がさらに複雑に、さらにおかしくしていきます。不条理に満ち、だからこそ愛おしいロサンゼルスそのものを体現した映画と言える、のかもしれません。
2. 小説:『大いなる眠り』
ロサンゼルスが舞台の作品を語る際に欠かせないキャラクターと言えば、私立探偵フィリップ・マーロウである、としても、おそらくどなたも異論はないでしょう。「シニカルで優しい孤高の騎士」マーロウが登場する長編第一作が、この作品。Hollywood Blvd.沿いに事務所を構えるマーロウが颯爽と動き、酒をあおるロサンゼルスは、息をつかせぬ事件の連続でなかなか本を措けません。近年、同シリーズは村上春樹新訳が刊行されていて、今のロサンゼルスにより近い、スタイリッシュな印象の翻訳で物語を楽しめます。
3. 小説:『ブラック・ダリア』
1947年にロサンゼルスで発生した未解決猟奇殺人事件、ブラック・ダリア事件をモチーフにしたハードボイルド小説。『LAコンフィデンシャル』の前日譚であり、暗黒のLA四部作の1作目。捜査にあたる元ボクサーのロサンゼルス市警バッキーを語り手に、ロサンゼルスの闇と光があぶり出され、市警や郡保安局にうずまく欲望から、ロサンゼルスの政治的構図、地理的構図が見えて来ます。犯罪、暴力、裏切りに溢れつつも、後味は爽やか。2006年にはブライアン・デ・パルマ監督により、ジョシュ・ハートネット他の出演で映画化。
4. 小説:『ロサンゼルス・ミステリー』
8人のロサンゼルス在住の作家が、ロサンゼルスを舞台に書き下ろしたミステリー短編集。ハリウッド・スターの星形の上で息絶える男、さびれていたベニスの復活に引き寄せられて戻って来た殺人犯、夢を追いかけ夢に惑わされる男女……。移民と夢が溢れるロサンゼルスに起きる8つの事件は、実際に暮らす作家の手によるからこそ、フィクションとは思えないほどリアル。それぞれ異なる場所を舞台にしているので、ロサンゼルス各地の特徴を捉えるのにも便利な一冊です。
5. 映画:『(500)日のサマー』
「運命の恋」を信じる20代草食系男子トムは、ある日、勤務先のメッセージカード会社に入って来たサマーに一目惚ぼれ!トムは勝手に彼女と共通点を見つけて「運命」と盛り上がるのだけれど、恋人は作らない主義のサマーとは、ちょっとちぐはぐ。恋愛につきものの温度差、思い込みがあまりにリアルに描かれていて、自分の過去を振り返って胸がキューっと痛くなりそう。500日目、トムが新たな一歩を踏み出す場所は、ダウンタウンロサンゼルスのブラッドベリー・ビルディング。ダウンタウン・ロサンゼルスの建築や、ロサンゼルスらしいファッションと音楽も満載の一本です。
6. 小説:『LAヴァイス』
ノーベル文学賞候補常連。だけど素性さえ明らかでない、アメリカ文学の謎の巨人、トマス・ピンチョンのベストセラー探偵小説。元恋人から不動産業界の大物にまつわる事件の調査の依頼を受けた、大事な時にラリってしまうヒッピー探偵ドック。ところが目覚めると目の前には死体が!?ドックは国家権力にドラッグ、洗脳の渦のまっただ中に否応なく巻き込まれて…。1970年代のロサンゼルスを舞台に、危険なまでに愉快なピンチョン節が炸裂。2014年公開の、ポール・トーマス・アンダーソン監督による映画は、原作のイカれた躍動感に、ノリノリのサーフミュージックが加わって、最高のトリップ。
7. 映画:『her/世界でひとつの彼女』
近未来のロサンゼルスを舞台にした人口知能OS、サマンサと恋に落ちる男性セオドアのラブストーリー。手紙の代筆を仕事にしている、ちょっと冴さえないセオドアを演じるのは、ホアキン・フェニックス。何を訊たずねてもトキめく答えをくれるサマンサ(OSだから姿はなくて声だけ。そのセクシーな声はスカーレット・ヨハンソン)、まさにセオドアの理想そのもの。進化していくOSとの恋は決してハッピーエンドではないけれど、映画はなんだか素敵なエンディング。Arcade Fire作曲のキュートなBGMが流れる、未来のロサンゼルスのビーチやWalt Disney Concert Hallの庭でのデートシーンは、思わず出掛けてみたくなる!
8. 映画:『Dope』
イングルウッドを舞台にした青春コメディー。1990年代のヒップホップオタクで、パンクバンドのメンバーでもあるアフリカ系少年、マルコムの夢はハーバード大学への進学。ところが、友人とあるアンダーグラウンドパーティーへ行くことになったことから、ドラッグと恋とヒップホップが鳴り響く新たな冒険が始まり…。監督はイングルウッド育ちのリック・ファマイイワ。ファレル・ウィリアムスが関わった、ロサンゼルスの明るい雰囲気に満ちた音楽が、この土地ならではの青春を色鮮やかに見せてくれます。
ロサンゼルスを舞台とした映画については「映画やドラマの撮影に使われたロサンゼルスのロケ地」も併せてご覧ください!