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現地情報誌「ライトハウス」が過去に取り上げた、アメリカ芸能界ゴシップ情報や、著名人・有名人へのインタビュー記事など。
ライトハウス編集部
カンヌ映画祭だより(後編)
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第62回カンヌ映画祭結果発表!
ドイツ人監督ミヒャエル・ハネケが
最高賞のパルム・ドール受賞
5月13日から開催され24日に幕を閉じた、第62回カンヌ映画祭。常連が有利と言われる映画祭であるが、今年のコンペ部門は、特にクエンティン・タランティーノ、ペドロ・アルモドバル、パク・チャヌク、ジェーン・カンピオン、アン・リーなど、国際的に人気の監督から、ラース・フォン・トリアー、ミヒャエル・ハネケ、ケン・ローチ、マルコ・ベロッキオ、アラン・レネなどベテラン監督まで、過去に同映画祭で受賞経験のある面々が勢揃い。アカデミー賞とはひと味もふた味も違う、映像芸術家を讃える祭典として真骨頂を発揮する、質の高いラインナップとなった。
前回に引き続き、現地での様子と結果をお伝えする。
パルム・ドール(最高賞)
『Das Weisse Band』(The White Ribbon)
ミヒャエル・ハネケ監督
5度目のコンペ出品で念願のパルム・ドールを受賞したのは、ミヒャエル・ハネケ監督の『Das Weisse Band』。第一次世界大戦前のドイツの小さな村で起こった悲惨な出来事を基に、ファシズムの台頭を予感させる政治的メッセージの強い作品だ。
審査委員長を務めたのは、フランス人女優のイザベル・ユペール。彼女は同映画祭で2001 年にグランプリを受賞したハネケ監督の『ピアニスト』の主演女優であったため、当初からハネケが有利なのではと噂されていた。しかし、ユペールは選考理由として「人間への慈愛にあふれた作品です。倫理的でもありますが、評決を下さずあいまいな方法で語るなど、監督は主題との距離を完璧に取っています。非常に重要な映画です」と客観的な評価を強調した。
グランプリ
『Un Prohete』(A Prophet)
ジャック・オーディアール監督
最後までハネケとパルム・ドールを争ったと目されていた、ジャック・オーディアール監督の『Un Prohete』はグランプリを受賞。フランスの刑務所に収容された青年が、コルシカ系マフィアとアラブ系ギャングの抗争の板挟みになりながら成長を遂げて行く物語。
前半に上映され、下馬評でも上位に付けていた作品だが、オーディアール監督はグランプリ受賞にも満足な様子。受賞後の会見で記者団から、パルム・ドールではなかったことについての感想を聞かれたが、「授賞式が終わってから2時間しかたっていないのに、すでに40 回も同じ質問をされている。うれしいに決まっているじゃないか。(グランプリは)大きな賞じゃないのか?」と切り返し、祝福と笑いを誘った。
男優賞
クリストフ・ワルツ
(『Inglourious Basterds』)
クエンティン・タランティーノ監督に「この作品にとって要の役。ぴったりの俳優が見つからなければ映画を撮らないつもりだった」とまで言わしめたクリストフ・ワルツ。受賞後ワルツは、「クエンティンの情熱が、私の才能を引き出してくれた」と感謝を捧げた。
女優賞
シャルロット・ゲンズブール
(『Antichrist』)
ヌードやバイオレントなシーンが満載のこの作品で、体当たりの演技を見せたゲンズブール。今では中堅女優の仲間入りをしているが、さすがにカンヌ映画祭での女優賞受賞には感激の様子。授賞式では、「映画を撮影中の母と天国にいる父親に知らせたい」とコメントした。
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脚本賞
メイ・フェン
(『Spring Fever』)
中国のロウ・イエ監督作品。2007 年に同映画祭コンペ部門で上映された『天安門、恋人たち』で、中国政府から上映禁止処分を受け、イエ監督は現在中国では映画製作を認められていない。
今回の脚本賞受賞のコメントでは、「スタッフに(自分と同じような)影響が及ばないように」と、仲間を気遣いながら、「すべての映像作家たちが、自由に映画を作れるようになるべき」と、心からの願いを訴えた。
カンヌ・スペシャルインタビュー
菊地凛子(『Map of The Sounds of Tokyo』)
今年のカンヌ映画祭でのもうひとつの話題は、コンペ部門に出品された菊地凛子主演作『Map of The Sounds of Tokyo』だ。海外作品に初主演した菊地凛子が、2006 年に上映された『Babel』以来3年振りにカンヌ映画祭に登場した。すっかりスターとなった彼女に、サインを求めるファンの姿も見られた。そんな彼女に現在の女優としての状況を聞いてみた。
「今は、つらい役こそやろうと思っているんです」と菊地は言う。「女優として華やかに映画に出るのは限りがあるような気がするんです。それに肉体を使う演技には、リスクも伴います。でも今はもっと自分を広げたいし、守る態勢は取りたくないんです。怖いとか、やりたくないと思うものこそやらないと、女優として固まっていってしまうんじゃないかと。そんな自分は見たくないです」。
イザベル・コイシェ監督の『Map ofThe Sounds of Tokyo』は、東京に住む孤独な女性の殺し屋が主人公。暗殺を依頼されたスペイン人男性に恋をしてしまう悲劇を、東京の音を収集する男の目線で綴っていく。
「イザベルとは共鳴し合ったというか、詩的で感覚的に書かれた脚本がとても好きでした。すごく複雑な脚本でしたが、私はそこに惹かれました。彼女とはわかり合えると思ったんです」と、監督とはすっかり意気投合した様子。
一方、コイシェ監督も、菊地との特別なつながりを感じているという。
「東京に行って本人に会ったら、あまりに素敵な人で泣きそうになった。インテリジェンスとユーモアのセンスを持ち合わせた彼女を、大好きになりました。さらに作品への取り組み方も真剣そのもの。ずいぶん苦しんだと思うけど、彼女の寛容さと勇敢さがこの作品には必要でした」と絶大な信頼を寄せる。
菊地は、コイシェ作品に共通する死生観にも惹かれると語る。
「喜劇と悲劇だったら、悲劇の方が好きなんです。生きている苦しみや社会に対する思いを突き付けてくれるのは、悲劇だと思うから。イザベルもセンチメンタルなものが好きなので、そういう感覚が合うのかもしれません」。
海外に出て強く感じるのは「役者たちが皆、闘っている」ことだと言う。
「並大抵のエネルギーじゃない。ぶつかっていかなきゃいけない。そこでは自分自身、傷付くことも多いし、恥もたくさんかいていると思う。それでも皆、闘っているのは、映画を愛しているからだし、“役が与えてくれる” ものだと思います。好奇心と探究心ですよね。それが自分を生き生きとさせてくれるので、今はやめられない、止まらないっていう状態です」。
【プロフィール】
きくち・りんこ■ 1981 年1月6日神奈川県生まれ。99 年『生きたい』で映画デビュー。その後、映画、TV ドラマ、舞台などで女優としてのキャリアを重ねる。2006 年、耳の不自由な日本人女子高校生役で大抜擢された『Babel』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、世界的に注目を集める。海外作品初主演となった『Map of The Sounds of Tokyo』は、フランスの高等技術院が選出する音響技術賞(バルカン賞)を受賞
第62回カンヌ映画祭受賞一覧
パルム・ドール 『Das Weisse Band』(ミヒャエル・ハネケ監督)
グランプリ 『Un Prophete』(ジャック・オーディアール監督)
監督賞 ブリランテ・メンドーザ監督(『Kinatay』)
男優賞 クリストフ・ワルツ(『Inglourious Basterds』
女優賞 シャルロット・ゲンズブール(『Antichrist』)
審査員賞 『Fish Tank』(アンドレア・アーノルド監督) 『Thirst』(パク・チャヌク監督)
審査員特別賞 アラン・レネ監督
脚本賞 メイ・フェン(『Spring Fever』)
カメラ・ドール 『Samson and Delilah』(Warwick Thornton 監督)
短編パルム・ドール 『Arena』(JoxJ・ Salaviza 監督)
【レポーター】
いしばしともこ◎映画情報番組の制作や日米の雑誌に映画情報を執筆するなど、ハリウッドの映画業界で10年以上のキャリアを積む。今年で参加5回目となるカンヌ映画祭の現地から、熱い様子をレポート。
(2009年6月15日号掲載)