「こんどイタリアに行くので、おいしいレストランを教えて!」。
友だちから、こんな質問をよくうける。
僕の答えはいつもこうだ。
「ミシュランのレストランガイドを買いなさい。そして、そこにでているレストランで、星のついていないところに行くといいよ」。
そうすると、友だちは疑問に思う。
「星のついてないところ? 星はついている店のほうがおいしいんじゃないの?」。
「じつはね、ミシュランというガイドブックはフランスで発行されているので、星というのは、基本的にフランス人の味覚でつけているものなんだよ。もし、せっかくイタリアに来たんだから、イタリアらしいものでおいしいものが食べたいというのなら、星のないほうがいいんだ」と僕は説明する。
つまり、星つきの店では、えてしてフランス料理に近い料理がでてきて、イタリアならではのピザやパスタ、カラマリ・フリットや仔牛のソテーなどがおいしい店には、星がついていないのである。
イタリアではイタリアならではの食べものを、フランスならフランスの、ドイツならドイツの、というのは、僕にとって旅行中の基本姿勢でもある。
じゃ、星つきの店はおいしくないのか? というと、これが決してそうではないのですね。
星つきの店、たとえばミラノあたりにある一流店では、もう芸術の域に達しちゃってる、すばらしい料理を食べることができる。
つまり、おいしさと芸術性を徹底して追求すると、フランスとかイタリアといったジャンルを超えて、両者に共通の領域にたどり着くのである。
特に新しいスタイルのヌベール・クジーヌではそうだ。
こういう店はだいたいどこでも、少ない量の料理をいろいろとコースにしてサーブする、懐石料理風のものが用意されている。フランスでMenuDegustation、イタリアではMenu Degustazioneとよばれるやつだ(Menu=コース料理、Degustation/zione=消化)。懐石料理風、と書いたが、もともとこのスタイルは日本の懐石料理そのものをヨーロッパ人がまねしたものだ。
ジャンルや呼び名はどうでもいい。とにかくおいしいものを、季節の食材を徹底的に吟味して、シェフの独創的なアイディアとセンスをいかし、手間をかけ、時間をかけて料理し、提供しよう、という精神である。
たとえば、フンギ・ポルチーニ。
秋のトスカーナ地方のデリカシーだ。
あるいは冬の白い宝石、イタリアン・トリュフ。
そして海にも山にも森にも近い北イタリアならではの山海森の珍味。
ミラノの一流店では、それぞれの料理に、いまやフランスを越えたと評価する人もいるイタリアのワインをペアリングさせ、「料理」だけでなく「食事」という体験全体を、崇高なまでのレベルに昇化させてくれるのである。
でも、フランスと似ている、とはいうものの、そこはさすがイタリア、必ずパスタ料理がつくのがとてもうれしいです。
(2009年7月1日号掲載)
北イタリアの芸術
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