世界には、バカな食べものがいくつかある。
まずは、vaca。
スペイン語で「牛」のことで、スペイン語ではVは「ヴ」ではなく「ブ」と発音するから、まさにそのものずばり、「バカ」である。
「肉」のことはカルネ(carne)で、牛肉のことはcarne de vacaというのだが、ただcarneといえば、通常、牛肉のことを意味する。
ついでながら、中国語ではただ「肉」といえば豚肉のことだから、それぞれの国ではどちらの肉がより一般的か、ということがわかる。
さて、関東人が「バカ」といえば、関西人は「アホ」と答える。
スペインには、「アホ」な食べものもちゃんとある。
ajoはガーリックのことで、Sopa de ajoといえば、スペインではとてもポピュラーな、ガーリックスープだ。
ajoblancoは冷やしたガーリックスープで、白ガスパチョともいわれる、スペインはアンダルシアの珍味だ。
しかし、なんといってもいちばんバカなやつは、「バカヤロー」だろう。
これはポルトガルにある。
ポルトガルのレストランに行って、注文をとりにきたウェイターに「バカヤーロ!」といえば、彼は何の苦もなく理解してくれるだろう。
bacalhau、ポルトガル料理はこれを抜かしては考えられないという、塩漬けタラのことだ。
正確には、「バカヤーオ」に近く、ヤと書いたがヤとリャの中間のような音だ。つまり、「バカヤロー」というよりは「バカヤーロ」に近い。
ポルトガルのバカヤーロは、ほとんど必ずといっていいほどそのままでは食べず、塩漬けにして乾燥させ、食べるときに塩抜きしてから調理して食べる。
14世紀、世界を凌駕したポルトガルの大航海時代に、船員の保存食料として重宝したものが、いまだポピュラーな料理になっているのだ。
ポルトガルにいくと、これをさまざまに料理したものが楽しみのひとつである。
ニンニクとトマトのソースで和えたりグラタンにしたり、タマネギ、ジャガイモの細切りとともに卵トジにしたもの、クリーム煮などなど。
いずれも、オリーブオイルをたっぷり使う。スペインやイタリアとはちがう、ポルトガル独特の香りのオリーブオイルだ。
僕は、戻したバカヤーロをただ蒸して、ポルトガルのオリーブオイルをたらしたものがいちばん好きだ。じゃがいもの茹でたのが添えられていれば、最高!
ポルトガルは何回か行ったのだが、ポルトガルの景色や町並みを思うとき、バカヤーロとオリーブオイルの香りがたちまち記憶によみがえる。
ところで、フランスではエイプリル・フールのことをPoisson d’Avril、つまり「四月の魚」という。
このころに捕まる魚はバカだということが理由らしいが(定かではない)、やはりタラもバカヤローなのであろうか??
(2009年7月16日号掲載)
バカな食べもの
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