「Iced coffee??? Iced Teaならあるけど、コーヒーの冷たいのなんて、知らないね」。
僕がアメリカに来た30年以上まえ、コーヒーショップでアイスコーヒーを注文してみれば、こんな答えが返ってきたものだ。
アメリカに来るまえ、日本ではアイスコーヒーが大好きでいつも飲んでいたから、あの味がなつかしい。
日本だけじゃない。イタリアにいけば「caff e freddo」といううまいアイスコーヒーが飲める。
「じゃ、コーヒーにアイスキューブを入れて!」とたのんだら、出て来たのはもともと薄いアメリカのコーヒーがさらに氷で薄まったもの。
テーブルにある砂糖を2~3袋破って入れてかきまぜてみても、ちっとも甘くならない。アイスティーでも同じだけど、冷たい飲みものに粉の砂糖しか用意されていないというところもヘンだ。
結局、香りも甘みもない、ただの茶色い水でした。
それがある日突然、一変した。
スターバックスの登場である。
そこから先は説明の必要がない。冷たいコーヒーはあっというまにアメリカ中に普及し、アイスドカプチーノやフラプチーノなど、イタリアにはない新種もどんどん発明され、いまやどこでも飲める。これはありがたいことだ。
でも、まだ不思議なことがひとつあります。
なぜアメリカ人は、冷たい飲みものをストローで飲むのだろう?
コーラが世界に普及したと同時に、その飲み方も世界中に広がってしまった。
僕はストローは使わない。
だって冷たい飲みものは、ひんやりとしたグラスに唇をふれて、そこから口全体になめらかに侵入してくる液体が心地よく、夏の暑さをやわらげてくれるのではないだろうか。
ストローで吸いこむと、液体は口蓋の奥のほうに突然出現することになり、香りをゆっくり感じるヒマもなくノドに流し込まれていってしまう。
だって、ワインをストローで飲む人はいないでしょう? それはグラスに口をつけて飲むほうがおいしいということをみな無意識に知っているからだ。アイスコーヒーもおなじだと思うんですが。
そもそもですね、ストローは環境に悪いんじゃないですか!?
あのプラスティックの筒を作るために、どれだけのCO2が排出されるのだろう。
ゴミとしてどれだけ捨てられているのだろう。
「割り箸は環境に悪い。『マイ箸』を使おう!」というひとたちがいるが、この頃は、「いや、あれは間伐材を使うのだから森の活性化に役立ち、環境にいいのだ」、という説も普及してきた。
ところが、「マイストロー」を使おう、というひとはまったくきいたことがありませんねえ。
ストローはどこからどうみたって環境にいいわけがない。
環境のためにも、アイスコーヒーをおいしく飲むためにも、ストローをやめてみませんか?
(2009年9月16日号掲載)