今回は珍しくアメリカ料理。
料理というほどでもないかもしれないが、フィラデルフィアのサンドイッチ。これは日本やヨーロッパにくらべてアメリカではかなり少ない、ご当地名物のひとつである。
ニューヨークのホットドッグ、ボストンのクラムチャウダー、テキサスの巨大ステーキ、サンフランシスコのサワードウなどもその部類だ。
フィラデルフィアはもともと、アメリカでも食通の街ということになっている。
その証拠に、料理の鉄人で有名な森本シェフが店を開いたのもこの街である
(ちなみにこのMorimoto Restaurant はZagat で27点を得ている)。
僕もこの街でフランス料理を食べたことがあるが、料理の質の高さもさることながら、カリフォルニアとはまったくちがうしっとりとした歴史のある街並みや、ヨーロッパのようなレストランの建物の造りが印象的だった。
言うまでもなく、この街はアメリカ建国ゆかりの地で、歴史的な建物やモニュメントは数多い。
意外だったのはアメリカ合衆国を象徴する自由の鐘Liberty Bell。
旧市街の奥の教会にでもしっかりと飾られているのかと思いきや、大きな道路に面した公園の広場で、ガラス張りの温室のような小屋に入っていた。
ところで、フィラデルフィアという街のなまえの由来はご存じだろうか?
Philo はギリシャ語で「愛」のこと、delphi は「兄弟」。
つまりPhiladelphia は「兄弟愛」という意味である。
ヨルダンの首都アンマンも、むかしこう呼ばれた。
そのペンシルバニア州フィラデルフィアには、古くからイタリア人がたくさん移住した。
そして、イタリアンスタイルのサンドイッチが人気をよび、それが発展したのがフィラデルフィア・サンドイッチなのである。
したがって、まずそのパンは、イギリス風四角いパンでもなく、フランス風バゲットでもなく、イタリア風コッペパン。
ちなみに、イタリアにいくとpanino とかtramezzino とよばれるサンドイッチもあるが、sandwich と英語をそのまま使ってよぶものがあり、それがまさにこのパンを使ったものである。
もうひとつちなみに、日本でコッペパンというところのコッペという名称は和製仏語らしく、イタリアとは関係ないらしい。
さて、そのパンに牛肉の薄切りを鉄板でグリルしてはさんだものが、典型的なフィラデルフィア・サンドイッチである。
もちろん、アメリカのことだから牛肉はパンからはみでるように山と入っている。
それだけならただのステーキサンドだが、チーズがちがう。
Provolone というチーズをスライスして溶かして、肉にからませることによって独特の風味を出す。
Philadelphia Steak Sandwich とかPhilly Steak とかいうよび名は、カリフォルニアをふくめてフィラデルフィア以外の土地のひとが言うものだ。
地元のひとは単にCheesesteak またはCheese Steakと言い、サンドイッチとさえ言わない。
そして、お好みによりオニオンとマッシュルーム、それにピーマン(英語ではベルペッパー、ピーマンはフランス語です)をグリルしてはさむことによって、
さらに独特のうまさを出すのだ。
それにマヨネーズやトマトソース、またはケチャップを使うひともいるが、そうなると僕に言わせればふつうのハンバーガーなどに近い味になってしまい、フィリーステーキらしい風味がなくなる。僕は塩だけだ。
そしてビーフからのおつゆ、ジューシーさがきめ手である。
ビーフではなくチキンとかベジタリアンもあり、アメリカンチーズをProvolone と一緒に使うこともある。
そしてやはりこのサンドイッチにはフレンチフライがよくあう。
エスニックフードの街、LA、SDでアメリカ地方料理Cheesesteakもちゃんと食べられるのは、うれしいことである。
(2006年3月1日号掲載)
兄弟愛のチーズステーキ
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