だいぶまえのことだが、友人を連れてヤムチャを食べに行った。当時勉強を始めたばかりの中国語を使って料理を注文し、得意になっていた。
「緑野菜も一皿注文しようね」といって注文したら、ウェイターはカラシを小皿に乗せてもってきた。
友達に大笑いされたのは言うまでもないが、懸命に自己弁護に努めたのは、芥菜(カラシナ)を注文したつもりが芥子(カラシ)と理解された、ということなのである。
カラシは、芥菜(芥子菜とも言う)のタネから作る。
芥菜にはいろいろあって、マスタードつまり洋ガラシと日本の和ガラシは、使う芥菜の種類がちがう。
マスタードと和ガラシは、似てはいるけど、料理との相性がぜんぜんちがう、別の調味料と言ってもいいのではないだろうか。どちらかでもう片方を代用するわけにはいかないのだ。
たとえば、納豆にマスタードを入れたら、マズイでしょうね。オデンもしかり。
そもそも、マスタードの利用価値というのは、日本ではまだあまり認知されていないのではないだろうか。
たとえばフランスではどうか。
カフェやビストロに入ってステーキを注文すると、ウェイターは必ずビンに入った二、三種類のマスタードを持ってくる。フランス人にとってステーキにマスタードは、アメリカ人にとってのA1ソース以上に必需品である。
フランスのマスタードは和ガラシのように鼻にツンとくる辛さはなく、僅かな酸味と芳香が肉の香りとマッチして、一枚のステーキを切りながら、つけたりつけなかったりして食べることによって味に起伏がうまれ、楽しみが倍加する
もひとつ、ポトフー。
この、牛肉を野菜といっしょにクリアスープで煮込んだものは、マスタードを楽しむために生まれた料理と言っても過言ではないのではないかとさえ思う。肉のうまみと渾然一体となって、じつに味わい深くなる。
イタリアでも、僕はボローニャに行くと、名物ボリート・ミスト、つまり茹で肉の取り合わせを食べるのが楽しみだ。
カートに、さながらオデンのようにいくつか小さく仕切られた四角い鍋が乗せられて出てくる。それぞれちがう種類の肉のかたまりが茹でられている。
これとそれとあれ、と指さして頼むと、切り分けてくれる。
これに、何種類か用意されている特製のマスタード(イタリア語ではセナーペ)をつけながら食べると、幸せ至極と言っていい。
ドイツのソーセージたちも、マスタードがなければ話にならない。 つまり、お気づきのように洋ガラシというのは、肉とこそすばらしい相性をみせるのである。
まてよ、考えてみれば、日本ではトンカツに和ガラシをつけて食べるけど、トンカツだってレッキとした肉だな。
マスタードだったらどうだろう?
さっそく家でトンカツを揚げてフランス製マスタードをつけて食べてみた。
これはウマイ!!
和ガラシによるツンとくるアクセント感も決して悪くないが、マスタードは豚肉の味わいもすごく高めてくれる。
マスタードと和ガラシのどちらでもあう、数少ない料理のひとつのようである。
LAではココ!
「味」は30点満点、「予算」は二人分です
Nesai
とても品のいい日本人のマダムが経営する店。以前はフレンチだったが最近イタリアン主体にシフトした。個人の家を改造した店は落ち着いて食事ができる。サービスのよさは格別だ。ステーキもあり、もちろんマスタードを頼むこともできる。
味:24 予算:$70
215 Riverside Ave., Newport Beach
☎949-646-2333 www.nesairestaurant.com
Tue-Sun 5:30pm-10:00pm
Closed on Mondays
Monsieur Marcel
ファーマーズマーケットにあるとてもカジュアルなレストランだが、その内容はホンモノのフレンチカフェで、決してあなどれない。フランス風ステーキももちろんある。隣接する同じ経営のマーケットにはフランスのマスタードやチーズなどが豊富。
味:23 予算:$70
6333 W. 3rd St. #236, Los Angeles
☎949-263-9400 www.mrmarcel.com
Mon-Fri 11:00am-9:00pm
Sat 9:00am-9:00pm
Sun 9:00am-7:00pm
Open 7 Days
(2010年2月1日号掲載)
和洋カラシ談義
「ミスター世界の食文化紀行」のコンテンツ
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- づくしの世界
- パンの食べかた
- 韓国のうどんたち
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