さんさい鍋

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Mr.世界(さんさい鍋)

そろそろ鍋ものの恋しい季節ですね。
 
今回は中国の酸菜鍋について。
山菜鍋じゃないです。
酸菜入りの砂鍋(サークォ)。
砂鍋とは日本でいう土鍋のことで、あれは中国では土ではなく砂でできているとされているようだ。
 
台湾人の家庭によばれて、砂鍋をごちそうになったことがある。
その家に着いたら、テーブルに鍋とコンロの用意がしてあったので、「よし!今日は鍋だな」と喜んだ。僕は鍋が大好きなのだ。
ところが驚いたのは、その鍋は食事のほんの一部だったことだ。奥さんが台所で魚や肉や野菜を次々と料理してもってくる。
ふつう日本人の家庭では、今夜は鍋!となったら、ひたすら鍋を食べる。せいぜい前菜か箸休めがあるだけだが、中国では、数ある料理のなかの一品、いわばスープの一種である。
そして、鍋は酸菜入り。
 
中国の砂鍋には、必ずではないが、酸菜が入ることがとても多い。
酸菜(スワンツァイ)というのは白菜の漬物のこと。
中国の寒い地方では、晩秋になると白菜を甕かめに漬け込み、自然発酵させて酸菜を作る。いまは中国全土や台湾でも使われる食材だが、これが鍋の中でメインの味つけになる。
当然、スープは酸っぱい。
その酸っぱさと、漬物から出るグルタミン酸だかイノシン酸だかのウマミ成分が、鍋をものすごくうまいものにする。
 
日本のばあいは、ダシと具材からでる味、さらに醤油や味噌を入れてウマミを整えるわけだが、ここではこの発酵野菜から出るウマミだけが主体で、よりシンプルだが、うまさではひけをとらない。
スープが酸っぱいというのも、日本人にとっては新鮮だ。
 
考えてみると、日本には漬物を料理に使うという習慣がほとんどない。
飛騨地方には漬物を火で焼いて食べる習慣があるらしいが、これは寒いところで凍りついた野菜を溶かす意味あいもあるのだろう。
 
韓国にはキムチ鍋があるし、キムチを肉といっしょにバーベキューもする。
ドイツのザウワークラウトも、キャベツの酢漬けを暖かく茹でたものだ。
 
余談だが、酸菜は英語ではChinesesauerkrautとよぶこともある。
 
さて、この酸菜鍋の中にほかになにが入るかというと、日本の鍋と同じようにその家庭や気分によって、魚だったり肉だったりさまざまな野菜だったりするようだが、僕にいわせればベストは豚肉だ。
それも脂のたっぷりのった腹の肉で、中国語で白肉(バイロー)とよばれるほど脂がのっているやつ。
煮立ったあと浮いた脂をすくえば、悪いものは減るし(と信じたい)、酸菜とものすごくよくあう。考えてみれば、ドイツでも脂ののった豚脚の料理とザウワークラウトは絶妙にあう。
さらには豆腐や野菜、そして粉絲(フェンスー)、つまり春雨も酸菜鍋のポイントだ。
酸菜から適度な塩ケもでるから、ポン酢などのタレは不要。そのままスープを飲んでもおどろくほどうまい。
ただし、へたするとブタの血の塊や血のソーセージなども入ることもあるので、気をつけてください。
 
LA&OCではココ!
「味」は30点満点、「予算」は2人分です
 
Ma’s(馬家清真館)
思いがけない場所にあるイスラミック・チャイニーズ。酸菜入り羊肉砂 鍋などがある。しかも、酸菜羊肉蕎麦麺というめずらしいソバ粉のソバ 入りヌードルスープがあり、これはかなりヤミツキになりそうな味。本文 で酸菜は豚肉とあうと書いたけど、羊肉もすごくあいます!
味:22 予算:$20
601 E. Orangethorpe Ave., Anaheim
☎ 714-446-9553   
Lunch: Daily 11:00am-3:00pm
Dinner: Mon-Thu 5:00pm-9:30pm
Fri-Sun 5:00pm-10:00pm
Open 7 Days
 
J.Z.(江浙小吃)
これだけのチャイニーズ激戦区にあって、いつも混んでいる上海料理 店。小籠包もこの地域でベストのひとつ。酸菜白肉砂鍋がすごくうまい。 上海の店は店員の感じがいいが、ここもそのひとつ。
味:22 予算:$20
727 E. Valley Blvd., San Gabriel
☎ 626-288-6182 
Mon-Fri 11:00am-3:30pm、5:00pm-9:30pm
Sat & Sun 11:00am-9:30pm
Open 7 Days
 
(2010年10月16日掲載)

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