ラストスパートにディジェスティーフ

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Mr.世界(ラストスパートにディジェスティーフ)

前号で食前酒について書いたので、食後酒についても書かなくちゃ。
 
まずその呼び名だが、英語ではafterdinnerdrinkということもあるが、ヨーロッパではおしなべてdigestif(またはその類型)。
その意味は、とりもなおさず「消化剤」だ。
食前酒のことをaperitif「開胃剤」というのだから、食後酒のことを「閉胃剤」といってもよさそうなものだが、「消化剤」ときたもんだ。
つまり酒飲みたちが、開胃だの消化だのといって、酒を飲むことに自己満足しているというわけなのだ(僕もそうです)。
 
日本人のあいだでは、食前酒と同じく、食後酒があまり普及していないし、たのみたくても、なにをたのんでいいかわからない、という人が多いだろう。
伝統的な日本の習慣では、食事のコースを通じて酒の種類を変えていくということはしないし、したがって食前酒や食後酒というものがない。
 
フランスやイタリアのハレの食事では、食前酒からはじまってワインをいろいろ飲み、食事が終わってdigestifとなる。
この酒の特徴は、アルコール度が高いということだ。
なぜかというと、食事中にあまりアルコールがまわっちゃうと食べものの味がわからなくなっちゃうし、途中でダウンしたら困る。でも、食事が終わった時点では、ラストスパートとして強い酒を飲み、いい気分になってフィニッシュしようというわけである。
 
おなかが一杯だから、水分の多いものをゴクゴク飲みたいとは思わない。
そこで、ブランデー(コニャック、アルマニャックなど)や、フルーツ系の甘くて強いリキュールが人気だ。
たとえば梨から作ったポワレ・ウィリアムズ、すぐりのクレムドカシス、オレンジ風味のグランマニエールやコワントロー。ハーブとウィスキーのブレンド、ドランビュイ。
 
コーヒーのかわりに、コーヒーのリキュール、カルーアという手もある。
イタリアではブドウを蒸留したグラッパや、アニスの香りサンブーカ、ナッツのアマレット。レモンから作ったリモンチェロをキンキンに冷やして飲むのもいいですね。
ヨーロッパには、ありとあらゆる果物やベリー、さらには花のエキスやハーブ類が食後酒になっているといっても過言ではない。
なにを飲もうかなと考えただけでもワクワクする。
 
ラストスパート酒というアイディアは中国人にもあるようで、食事中には日本酒とほぼ同じ強さの紹興酒を飲んで、最後に白酒などの強い酒をあおるのが伝統だ。
食事のあとにバーへ行ってもう一杯、というときも、digestifが理屈のうえからいえばいちばんあうはずだ。
日本人はウィスキーの水割りかロックと決まっているようで、僕も日本の店にいくと自動的にウィスキーが出てくるので困ることがある。
 
もちろんそれがいちばん好きだから飲むのならそれでいいのだが、もうすこしdigestifの楽しみを知っても悪くないのではないでしょうか。
 
「日本でも食前酒を『開胃酒』と呼んだらどう?」と前号で書いたけど、食後酒も『消化酒』と呼ぶようにしたら、もっとポピュラーになるんじゃないでしょうか。
 
LA&OCではココ!
「味」は30点満点、「予算」は2人分です
 
Parkway Grill
ニューアメリカン・カリフォルニア料理の有名店。 活気のある店内が楽 しい。 料理は、 材料に手をかけ、 つけあわせにも凝っていて、 食べてまた 楽しい。 広いバーがあって食前や食後の一杯にむいている。
味:25 予算:$100
510 S. Arroyo Pkwy., Pasadena
☎ 626-795-1001 www.theparkwaygrill.com 
Lunch: Mon-Fri 11:30am-2:30pm
Dinner: Mon-Thu 5:30pm-9:30pm
Fri & Sat 5:30pm-10:30pm
Sun 5:00pm-9:30pm
 
Pinot Provence
ハリウッドの一軒から始まって、 いまやLA地区20軒以上、 全米に50軒 近くを擁するパティーナ系の店。 中でも珍しいプロバンス料理のこの店 は、 料理も雰囲気も申し分ない。 ここのバーは広くはないが雰囲気のい いバーで、 食前酒や食後酒がそろっている。
味:2 6 予算: $150
686 Anton Blvd., Costa Mesa
☎ 714-444-5900 www.patinagroup.com
Lunch: Mon-Fri 11:30am-2:30pm
Dinner: Sun-Thu 5:00pm-9:00pm
Fri & Sat 5:00pm-10:00pm
 
(2010年11月16日掲載)

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