いま飛行機の中でこれを書いている。さっき、食事を食べ終わったところだ。
機内の食事というのは、レストランや家で食べるものとはちがった楽しみがあるものだ。
決まった時間、イヤでも機内に拘束されているということで、いわば「あきらめの境地」に入ってしまい、食事もお酒も徹底して楽しむことができる。
飛行機内での食事ということについては、東海林さだおという天才随筆家が書いた忘れることのできない一節がある。原文は忘れたが、内容はこうだ。
「数百人の人々が、一万メートルの空の上で、全員同じ方向に向かって一斉に食事をはじめた。これはとても異様なできごとである」。
んー、誰も考えてみたことがないが、たしかにそういう光景は他ではみることができない。
でも、楽しいこともまちがいない。
食事の内容については、昔といまとを比べれば、昔のほうがよかったと言っても過言ではないだろう。
僕が飛行機に乗って外国旅行をするようになったのは1970年前後、まだ世界のどの国でも、海外旅行というのは限られた人だけのものという感覚があった時代だから、食事もいまよりずっと豪華だった。
たまに何かまちがって国際線のファーストクラスに乗ってみると(当時はビジネスクラスというものはなかった)、「前菜にはキャビア」というのが常識だった。
これはうれしかったですね。
さらには、焼き立てのローストビーフが大きな塊でカートに乗って登場したりしたものである。、チーフパーサーが座席の横でカーブしてくれた。
チーズなんかも一流レストランでしてくれるように、いろいろな種類がカートででてきて、切り分けてくれた。
いまはまず決してそういうことはないだろうが、そのかわり、和食に洋食、肉に魚、といったチョイスがふえたのはありがたい。
世界のいろいろな国々のエアラインに乗ると、いくつかあるチョイスのなかにはその国の特徴ある料理が入っていることが多い。たとえばインドの航空会社ならカレー、香港のエアラインならシューマイといったぐあい。これも楽しい。
だから僕は、なるべく目的地の国のエアラインに乗っていくことにしている。その国の食文化への前奏曲のような感じがするからだ。
機内の食事は、火を使って料理するわけにはいかないから、温めただけでもおいしく食べられるように巧みに工夫してあると思う。
ただし、アペタイザーやサラダなどの料理だ。これがえてしてものすごく冷たい。あれってなんとかならないものですかね。
そして、ワイン。
機内には世界のいいワインがいろいろそろえてあって選ぶのが楽しい。やっぱりビジネス、ファーストと上がるほどいいワインが揃えてあるようだ。
ところで飛行機って、着陸したら開栓したワインはぜんぶ捨てなくちゃいけない、っていう規則、知ってました?
どんなに高いワインでも、一杯だけしか注いでいない瓶でも、着陸直前にジャブジャブと捨てちゃうのだ。
それ、TO GOにしてほしいなあ、といつも思うのだが、そうはいかないのが残念だ。
(2011年6月16日掲載)
機内食昨今
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