「はんぺん」に「かまぼこ」、むかしからサカナ食に親しんできた日本生まれの、日本にしかない食材…。と思うでしょ?
賢明なる読者は、このコラムがそういう始まりのときは、「じつはそうではないのです」となることはご存じでしょう。
じつはそうではないのです。
まずは一気にフランス。
ミシュラン三ツ星の、何百年も続く鴨料理で有名なパリのラ・トゥール・ダルジャン、僕はここで食べた鴨よりも、はんぺんの味が忘れられない。
フランス語で「クネル(quenelle)」という。
もちろん、日本のはんぺんの製法と全く同じというわけではないが、食べ手にとっては同じ種類のものであることにはちがいない。
材料にはサカナだけではなく、エビや蟹のすり身と、つなぎとして卵の白身なども使っているらしく、シーフードらしい複雑で繊細な香りがまず鼻腔をやさしく刺激し、口にいれると生クリームのようにフワッと空気を含んでいて、なめらかで、口のなかで溶けていく感覚がすばらしい高級感を醸し出す。
上にかかっているソースは、卵の黄身とクリームのサバヨン・ソースで、この食材と完璧にバランスし、夢をみているような一皿だった。
はんぺんは、ノルウェーでも食べた。
ベルゲンという街の名物、Bergen Fish Soup である。
このスープには必ず入るというものではないようだが、たまたま僕が入ったレストランでサーブされたこのスープは、サカナのすり身を団子状にしたものを浮かべたもの。この魚団子もやはりフワッと空気を含んだやわらかーいもので、香りもおそらく北海からとれたタラを使ったのであろう、はんぺんやかまぼことよく似ていて、ストックのスープととてもよくあう。
しかもこのときは真冬。一日中太陽がほとんど出ない寒い街で食べた暖かーいスープとやさしいはんぺん、忘れられない食べもののひとつだ。
中国語圏にはじつはごく一般的にあるもので、台湾では魚丸、香港など南の地方では魚蛋または魚旦と呼ばれる。
スーパーでも袋に入ったものを売っているが、澱粉をまぜて機械で丸く製成しているらしく、固くて、いかにも工場製という味がする。
庶民的なチャイニーズやベトナミーズのレストランでは、材料代が安いのだろう、ワンタンやヌードルスープにゴロゴロ入っていたりする。
しかしレストランによっては、自家製として作っているものを出すところもあり、これはやはり空気を含んでやわらかく、別ものといっていいくらいおいしいものだ。
日本のはんぺんは、材料としてスケトウダラや、高級品にはサメ類も使われるようだが、やはりそういった厳選した材料とヤマイモなどのつなぎによってうまれるなめらかな舌触りがすばらしい。
はんぺんが洋風料理としてもおいしいということは、クネルで証明されているとおり。
そこで紀文のウェブサイトで紹介されている「はんぺんのバター焼き」を家で試してみました。
ちょっと焦げ目がつくくらいにバターで炒め、レモン汁としょうゆをちょっとかけて食べるだけの超簡単料理。
白ワインによくあってすごくうまいです。
LA&OCではココ!「予算」は2人分です
101 Noodle Express(魯味居)
アーバインに最近できた山東料理中心のチャイニーズ。麺類や餃子類が
うまく、いつも混んでいる。ここの魚丸湯、つまりはんぺん入りスープは
おどろきのうまさ。
予算:$20
5408-B Walnut Ave., Irvine
☎949-654-8542
Daily 9:00am-10:00pm
Open 7 Days
The Little Door
木立に囲まれた裏庭でゆったりと食事をしているような気分にさせてく
れるフランス料理の店。僕の味の評価は高い。いつもあるとは限らないが、
サカナ料理の副菜としてエビのクネルが使われることがあるようだ。
予算:$100
8164 W. 3rd St., Los Angeles
☎323-951-1210 www.thelittledoor.com
Sun-Thu 6:00pm-10:00pm
Fri & Sat 6:00pm-11:00pm
Open 7 Days
(2012年5月1日号掲載)
はんぺんくねる
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