初めてアンドレア・ボチェッリを聞いたのは、あるレストランのバックグラウンド・ミュージック(BGM)だった。十数年まえのことだったと思う。
イタリアン・レストランで、まわりの人の会話にまぎれてかすかに聞こえてくる歌声は、イタリア語だということはわかるが、聞いたことのない声だ。
朗々として、ソレントの崖の上から真っ青な地中海を眺め渡しているような気持ちにさせてくれて、料理がおいしくなった。
ウェイターに聞いてみたら、店でかけていたCDを見せてくれた。そしてそれがイタリアのテノール歌手、Andrea Bocelliという人だと知った。
このレストランはBGMのせいで忘れられない店となった(いまはもうない)。
イタリアン・レストランではイタリアのBGM。フレンチ・レストランではフランスの音楽がいいですね。
…とはかならずしも言えないと思う。
アメリカナイズしたイタリアンの店でナポリ民謡かなんかをかけられるとむしろ幻滅してまう。イタリアらしさをだそうとして、料理が及ばない分を音楽に頼っている気がする。
ジャパニーズ・レストランでもそうだ。
演歌のメロディーをテナーサックスで演奏しているバージョンかなんかが流れていると、「場末」という印象をうける。
そのいっぽう、静謐(せいひつ)な会席料理の店で、どこからともなく静かに琴の音が流れてくる、なんてのはいいですね。日本はいいなあと思う。
つまり、レストランとBGMって、かなり微妙な関係にあり、ひとすじなわではいかない。
同じ国のものだからいいとはかぎらないし、むしろ明確に対比させたほうがおしゃれだということもある。
Relais et Chateauxという、フランスを本拠地とするホテル系列がある。おもにヨーロッパの田舎で、むかしの旅籠(はたご)やお城などを改築して、小さくておしゃれなホテルにしてある。ホテル内のレストランでは、その土地の食材から作った料理とその土地のワインをフィーチャーしていて、とても洗練された空間だ。
あれはたしかシャンパーニュ地方だったと思うが、森の中の、こぢんまりした、貴族の狩りのため館を改築したこのホテルに投宿した翌朝、朝食ルームに降りて行った。緑に面したテラスのある、中世フランス風の、それはそれは素敵な小さな一室で、2~3組しかいないお客はそれぞれ静かにクロワッサンや自家製のジャムとコーヒーの朝食をとっていた。
そこにバックグラウンドとして小さくかかっていたのがジャズ。コルトレーン。
これがすばらしいマッチングなのだ。
新と旧、静と動、田舎と都会、バランスのよさとはこのことである。
お寿司やさんなんかでもジャズがかかっているところがある。これもいいし、バロック音楽もいいかもしれない。
LAにある日本人のやっているあるラーメン屋さんでは、常にレゲエがかかっている。ラーメンとハッピーな音楽が、よくマッチしている。
レストランにとって、BGMはひとつのポイントであることはまちがいない。
もちろん、なにもかけない、という選択肢もありますが。
LAではココ!「予算」は2人分です
Mastro’s Steakhouse
アメリカだからステーキがおいしいという印象があるが、じつはほんとうにおいしい店は限られている。この店はそのひとつ。アップスケールでちょっとおしゃれして出かけたいときにもちょうどいい。シナトラやディーンマーティンなどのBGMがアメリカらしさを演出している。
予算:$150
246 N. Canon Dr., Beverly Hills ※コスタメサ店もあり
☎310-888-8782
www.mastrosrestaurants.com
Dinner Sun-Thu 5:00pm-11:00pm
Fri & Sat 5:00pm-12:00am
Lounge Daily 4:30pm-1:00am
Moros
去年の9月にもいちど紹介したキューバ料理店だが、その後ますます人気店となり、目立たない店なのに週末はいつも満員。サルサのBGMと壁に描かれたサルサダンサーのシルエットがキューバ料理をひきたてる。
予算:$50
380 N. Harbor Blvd., La Habra
☎562-694-4169
www.moroscubanrestaurant.com
Tue-Thu & Sun 11:00am-9:00pm
Fri & Sat 11:00am-10:00pm
Closed on Mondays
(2013年6月16日掲載)
音楽は料理をおいしくする
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