このあいだ、サラダを食べていて、ふと思った。
なぜ日本では「サラダ」、っていうんだろう。
英語の「salad」が語源なら、「サラド」となりそうなもんだが。
フランス語も「salad」、ドイツ語は「salat」、イタリア語は「insalata」、スペイン語は「ensalada」、中国語では「沙律(サーラ)」…。
あ、ポルトガル語がサラダ「salada」だ!
サラダとは、パンやカステラともに、ポルトガル人が日本にもたらしたもののようである。
「-ada」という語尾は、ポルトガル語では動詞の過去分詞形をあらわす。
「sal」は「salt」と同じく塩だから、「塩されたもの」という意味になる。
むかしはドレッシングなんてものはなかったから、野菜にただ塩をかけたものを「サラダ」と呼んで食べていたのに違いない。
さて、そのサラダだが、アメリカのコーヒーショップなどで出てくるやつ、ほとんどのばあい、どうしてあんなにまずいのだと思いますか?
ひとつには、材料。味も素っ気もないレタスばっかり、ということ。
それ以外の葉っぱを使ったとしても、アメリカの野菜は、残念ながら日本やヨーロッパにくらべると、味と香りが格段にうすい。
でも、もっと大きなポイントは、ドレッシングを上からドロッとかけてしまうところだと思う。
アメリカにはイタリアン・ドレッシングとかフレンチ・ドレッシングと称するものがあるが、どこがイタリアやフランスなのかよくわからない。
イタリアやフランスでは、ほとんどのばあい、オリーブオイルとワインビネガー、それに塩・コショウだけである。
レストランでサラダを注文すると、ちょっと高級な店なら、ウェイターがテーブルサイドでミックスしてくれる。
ボウルに野菜を入れて、オイルとビネガー、塩・コショウを加え、大きなスプーンとフォークで丁寧にまぜてくれるのだ。
つまり、余分な味付けや香料を使わず、野菜の香りを引き出しながら、よくまぜあわせることによって野菜全体に味をなじませる。これがうまさのポイントである。
ドロッと上にかけただけのドレッシングは、僕にいわせると味の濃淡があって、不快だ。
それともうひとつ、アメリカの問題点は、機械で切った野菜を使うこと。
工場でサラダ用の大きさに切ってしまうことによってコスト節減になるのであろうが、これがうまくない。包丁で切ってもだめ。
手でちぎったほうが絶対にうまい。
これはなぜなのか僕もよくわからない。
手でちぎることで切り口から野菜の香りが放出されるのか、自然な切り口で舌触りがマイルドになるのだろうか。
僕も自分の家でサラダを食べるときは、かならず手でちぎる。
ところで、フランス料理では、サラダは、前菜ではなく、メインコースのあと、つまりチーズのまえに、口をさっぱりさせるために食べるものである。
いや、であった、と書くべきだろう。
僕がはじめてフランスを旅行した1970年代はたしかにそうだった。
でもこのごろはアメリカ式に前菜として食べるのが普及している。
フランスでは、ニース風サラダにも格別の魅力がある。
イタリアではシーザーズサラダ、といいたいところだが、これはイタリアにはまったく存在しない、というのもすでに書いた。
世界でいちばんサラダがうまいのは、ギリシャ、というのも書いた。
ロシアでは、野菜とゆで卵をマヨネーズで和えたものが一般的で、これがまた捨てがたいうまさである。
中国では、特に潮州名物の「龍蝦沙律」、つまり伊勢エビのマヨネーズ和えサラダが豪華でうまい。
単なるサラダ、されどサラダ、それなりに食道楽を楽しませるものをもっている一品である。
(2006年4月1日号掲載)
そもそもサラダとは?(サラダの由来)
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