フォアグラだのトリュフだのといった高級食材もふくめて、いろいろな料理や食材をとりあげてきて、「とつぜんキャベツとはどうした?」と、言われそうだが、これがじつは僕にとってはとても重要なものなのである。
僕はこどもの頃からやたらキャベツが好きで、バター炒めのキャベツで自分の部屋の床から天井までを一杯にしてみたいといつも思っていたものだ。長じて、いまは毎週末、赤キャベツを千切ってオリーブオイルとバルサミコで和えて食べるのがならわしで、これがないと僕の週末ははじまらない。当然、トンカツ屋には、キャベツを食べるために行く。
そんな僕だから、ドイツに行くと、「ザワークラウト(Sauerkraut)」、つまり酢漬けキャベツがたのしみである。(ザワークラ「フ」トという人がよくいるが、それはまちがい)。
これはドイツではおそろしく重要な食べもので、寒くてあまり野菜が豊富にとれないドイツにおいて、もともと野菜といえばこれとじゃがいもしかないみたいなもの。
いまでこそ国際化していろんなものが食べられるが、ザワークラウトの重要性はかわりがない。
アメリカのイエローストーンにキャンプにいった時に、ドイツ人の団体といっしょになったことがある。
なんと彼らは、20、30人も寝泊りできる巨大なキャンピングカーをドイツから持ち込んで旅行していたのだが、キャンプ場についたとたん、屋外のテーブルで女性たちが全員でキャベツをきざみだしたのにはおどろいた。アメリカまで来ても、なにはともあれザワークラウトを作らないことには食事にならない、というわけである。
自然発酵で漬物にするのが本来だが、即席には茹でてレモン汁や酢を混ぜてつくることもできる。
ただし、ディルやキャラウェイの種をまぜるのは必須だ。
ソーセージもそうだが、もともとは蒙古の遊牧民族の食べもので、それがヨーロッパに伝わったものらしい。
じつは、意外に思われるかもしれないが、ドイツ人だけではなく、フランス人もザワークラウトが好きだ。
フランスで「シュークルート(Choucroute)」とよばれるものが、まさにザワークラウトそのもの、「酸っぱいキャベツ」なのである。
もともとドイツに近いアルザス地方の名物だが、パリのカフェならどこにもおいてあるような、ポピュラーな食べものである。
ドイツとおなじく、ソーセージや塩漬けの豚の足などといっしょに食べる。
フランス人にとって、キャベツはとくに愛されているもののようで、「Ma choute(女)」「Mon chou(男)」と言えば「私のキャベツちゃん(my sweetheart)」という意味だ。
北欧では、キャベツロールはじぶんたちの郷土料理だといっているが、じっさいはほかの国でもよくみかける。
キャベツには「glu-cosinolates」という抗ガン物質が入っていて、その点で芽キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーなどと共通しているらしい。
これらの野菜にはみな、味というのとはちょっとちがう、独特の風味のようなものを感じる。
それがglucosinolatesなのであろう。それが好きで、僕はブロッコリーなどもよく食べる。
というわけで、一見ありふれた食材であっても、キャベツは食文化にあふれ、しかも栄養価が高く、なおかつ僕にとっては重要な食物なのである。
(2005年2月1日号掲載)
わたしのキャベツちゃん
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