前回は、アメリカにおけるヘンなイタリアンのはなしだったので、今回はヘンなフレンチについて書こう。
と思ったら、これがあんまりない。
イタリアのほうは古くから移民がとても多く、かれらの食文化が長いあいだにアメリカナイズしていったのだろうが、フランス系にはそういう歴史がないようだ。
しいていえば、エスカルゴ(かたつむり)。フランス料理の代名詞のように言われているのに、フランスに行けばちっとも一般的じゃない、ってなことはあるが、存在しないわけではない。
しかし、ヘンなフランス語、というのがあります。
「Entrée(アントレ)」。このフランス語の意味は、entry つまり「入り口」で、アペタイザーのこと。
これがなぜかアメリカではメインコースのことになっているのだ。
ではフランス語ではメインコースのことをなんと言うのでしょう?
なんとも言いません。
メニューにはふつう、メインコースというセクションがなく、「Volailles(禽鳥類)」「Viandes(肉)」「Poissons(魚)」「Legumes(野菜)」というようにわかれているのである。「Plat principal」と言えなくもないが、一般的ではない。
ところでこの「Poisson(魚)」というのは、まるで「Poison(毒)」みたいでしょ?
フランスではじめてメニューを見るアメリカ人や日本人がみんなおどろく。
ちなみに「毒魚」はなんて言うかというと、「Poisson empoisonnée」である。
それはどうでもいいとして、フランスはやはり「食」については世界最高というイメージが定着しているから、アメリカのレストランでフランス語をそのまま使っているケースは多い。
「Buffet」もそうだ。
これは、もともとは食卓のそばにおいてあるサイドボードを意味していることばだが、そこに料理を並べて各自がとって食べたところから、あの食事スタイルの呼び名となった。
ただし発音はフランスでは「ビュフェー」。
日本語の「ビュッフェ」も英語の「バフェー」もちょっとちがうが、まあいいでしょう。
あんまりよくないのは、車をレストランの前までのりつけたときに係の人が駐車してくれるやつ。
さあみなさん、あれはなんと言うのでしょうね。
そう。「Valet Parking」です。
でも、それを「バレット・パーキング」と発音してませんか。
「Valet」はフランス語でも英語でも「バレー」です。
そんなこと言ったってtがあるじゃない、という人、踊りの「ballet」はバレットと言わないでしょ?
Buffet もそうだし、「Filet(フィレー)」つまりヒレ肉、「Lait(レー)」つまりカフェオレのレ、すなわちミルクもそうで、フランス語の単語の語尾のtは原則としてサイレントだ。
アイスクリーム・パフェのパフェ(Parfait)は、英語で言えばperfect、つまりアイスクリームにいろんなものをのせて「完全」にした、という意味だ。
さて、はなしを急ごう。アメリカのレストランで使われるフランス語。
「Prix Fixe」はコースになっている食事。Fixed Price という意味だ。
レストランに入ったとき、入り口からテーブルに案内してくれる人のことは、なんと言うか知ってますか?
「Maitre d’Hotel( ホテルの主人)」を略して「Maitre D(メイトルディー)」と言う。
むかしはホテルと食堂が一緒になっているばあいが多かったのだろう。
chef もそうだし、hors d’oeuvre(発音はオードブルじゃなくオドゥーヴル)もそうだ。
いや、考えてみればrestaurantがそもそもフランス語だ。
これはrestore に関連することばで、体を元気に回復させる、という意味なのだ。
さあみなさん、レストランに行って元気になりましょう。
(2006年5月16日号掲載)
ヘンなフランス語
「ミスター世界の食文化紀行」のコンテンツ
- 二百カ国のよろこび
- ホンバの焼肉
- 東南アジアのうまみ
- ラストスパートにディジェスティーフ
- まずはアペリティーフを
- さんさい鍋
- 温故鴨知新鴨
- ゆかり
- ツケ麺はかっこいい
- マロウの必然と偶然
- ヌードル?麺?
- トマトとトマト
- 食在哪里?
- ニーニの好きなパニーニ
- コリアンダーを見直そう
- タコのタコ
- からまわりステーキ
- ホントのサービスとは?
- 挨拶もポイント
- チャイニーズったっていろいろ③
- チャイニーズったっていろいろ②
- チャイニーズったっていろいろ①
- 和洋カラシ談義
- ザガットの利用価値
- 酢豚の文化
- アボガドの生命力?
- マルガリータとマーガリン
- ケニアで食べた味
- ちょっとコワイ中国料理
- イギリスって 食べものがおいしい!
- モッツァリしたモッツァレッラ
- アイスコーヒー???
- デンマークでウィーン
- デザートに抜糸を
- バカな食べもの
- 北イタリアの芸術
- キューバ料理とサルサ
- キューバの素顔
- めでたい200回
- フニャフニャマックチーズ
- タパスが流行ってます
- 健康的料理
- 食い道楽の燕の巣
- カタールのかぜ
- マグロなビーフステーキ
- 台湾B級グルメ
- 世界三大料理とやら
- ポッサム隠れた美味料理
- しびれるスイートブレッド
- 角煮の罪