コーヒーに、しっかりあわ立てたミルクをたっぷり入れた、カプチーノ。
イタリア旅行の楽しみのひとつといってもいい飲みもので、そのなまえの由来をご存じのかたも多いだろう。そう、カプチン派の修道僧からきている。
カプチン派とは、16世紀にフランチェスコ会から分かれたカトリックの一派で、「cappuccio(イタリア語で頭巾)」をかぶる習慣からこう呼ばれる。そのかれらのまとっているケープの色が、ちょうどミルク入りのコーヒーの色に似ているので、カプチーノ(カプチン風)という名をつけられたのだ。
アメリカでは、いまでこそスターバックスなどのコーヒー屋をはじめ、ちょっと気のきいたレストランならエスプレッソやカプチーノが飲めるが、僕がアメリカに移住したばかりのころ、つまりいまから30年ほどまえはそうではなかった。
いや、正確に言えば、カプチーノはそのころでも飲めた。
しかし、これがヘンなカプチーノなのである。
そもそも、当時のLAにはロクなレストランがほとんどなかった。
日本料理といえば、アメリカ人にはテンプラとテリヤキのコンビネーションくらいしか思い浮かばなかったような時代である。
イタリアンとかフレンチレストランと称する店も、いいかげんにイメージだけで料理したような店だった。
その圧巻と言えるべきものがカプチーノである。
アメリカンコーヒーにふつうのミルクと砂糖、そしてなにかの酒(リキュール)を入れたもの。
ちょっときどったレストランで「カプチーノ・プリーズ」と言うと、これがでてきたものである。
それがいつのまにか、ちょっとしたレストランならちゃんとエスプレッソマシーンで作ったほんものをだしてくれるようになった。
イタリア料理の食後とかに飲む人がふえた。
でも、ちょっと待って。
そこがおかしいのです。
カプチーノは昼間の飲みものなのである。
朝、出勤途中にバルに立ち寄って、カフェラッテやカプチーノを立ち飲みする。
あるいは午後の休憩に、カフェの路上のテーブルで飲む(ちなみにカフェラッテとカプチーノのちがいは、前者のほうはあわ立てないか、
または少しだけあわ立てたミルクを入れ、後者はたっぷりとあわ立てたミルクを入れる)。
イタリア人がランチやディナーをレストランで食べるときは、ご存じのように必ずパスタとメインコースを食べる。
そういう満腹状態のあとに、さらにあわ立てミルクたっぷりのカプチーノという、お腹をふくらませるものを飲むというのは、理にかなわないのである。
そこで、ふつうはエスプレッソ(イタリア人はただカフェとよぶ)、または、マッキャート(エスプレッソにミルクを1滴だけたらしたもの)を飲む。
食後にカプチーノを飲むイタリア人は、まず皆無と言っていいだろう。
僕のイタリア人の友人によると、あれは朝11時までの飲みものさ、と断言した。
それが好きならば、いつ飲もうと、悪いとは決して言わない。
ただ、それがイタリアの習慣だからと、かっこいいと思って、飲むことはないのです。
(2005年3月1日号掲載)
ほんもののカプチーノ?
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