フランスを代表する料理のひとつ、オニオン・グラタン・スープ。
フレンチレストランに行ったら、なにはともあれ、これから食事をスタートしたいですね。
…という人、いますか?
ちょっと待ってね。
たしかに、フランスに行くと、おいしいオニオン・グラタン・スープ(Soupe al’oignon Gratine)を食べることができる。
ほんのり甘いオニオンと塩気のあるチーズ、それに天下一品のフランスパンの香りがあわさって、すごく満足度の高い食べものである。
でも、それはカフェとか、簡単なビストロのメニューに載っているアイテムで、ちゃんとしたレストランではまずお目にかからない。
それに、食事がこのスープでスタートする、ということはまずないのである。
まず、このスープの作りかたは、玉ねぎをスライスしてニンニクといっしょに炒め、スープで煮込む。
それをカセロールに移し、スライスしたフランスパン(バゲット)とチーズをたっぷりと浮かべ、全体をオーブンでベイクする。
ワインやシェリー酒をすこしいれることもある。
チーズはグリイェールなどの、香りの強いものをつかう。
ボリュームがあり、リッチだ。
日本語ではスープを「飲む」といい、英語やフランス語を含むヨーロッパ語は、どれもが「食べる」というが、それがまさにぴったりくる食べものである。
つまり、こういうものを食前に食べたら、空腹感がそがれて、次にでてくる料理のおいしさが半減してしまうのである。
フランス人はまず決してそういうことはしない。
食前にスープがほしければ、野菜のポタージュ(Creme deなんちゃらかんちゃら)だとか、コンソメ(Consomme)に、ちょっとだけヌードルが入っていたり、アスパラの先っぽが浮かんでいたり、あくまでも食欲を増進させるような軽いもの。
ついでにいうならば、日本人は、フランス料理というと、前菜がでてスープがでて、それからメインコース(エビとステーキとか)、というのが正式だと思っている人も多いらしく、実際に日本で結婚披露宴に招かれたりするとよくそういうのにあたるのだが、現代のフランスではそんなことはまずない。スープは前菜の一種である。
それでは、どういうときにオニオンスープを食べるかといえば、まずは夜食。
オペラやコンサートのあと、ちょっと小腹が空いた、というときにカフェでオニオングラタンとパンとワイン。
アルコールがたくさん入ったパーティーのあとに軽く食事を。
あるいは、ランチに、やはりパンとワインと一緒に。
それでおしまいである。
そのあとに肉や魚を食べるということはまずない。
どちらかといえば、冬の寒いときに体を温めるために食べるもので、日本でいえば、豚汁やおでんなどがそれにあたるだろうか。
前号でカプチーノについて書いたとき、食事でおなかが一杯になってからそれを飲むのは理にかなわない、と書いたのだが、今回はその逆である。
はじめからおなかを一杯にしてしまってはもったいない。
おなかの張りぐあいを考えながら料理を注文するのも、食事全体を楽しいものにするコツなのである。
(2005年3月16日号掲載)
オニオングラタンの素顔
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