ちょっとおかしいシャーベット

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Mr.世界(シャーベット)

ちょっとおかしい日本やアメリカの食習慣、その第3弾である。
1弾目は食後にのむカプチーノ、2弾目には食事の始めのフレンチ・オニオン・スープときたので、今回は食事の途中にでるシャーベットについて。
 
みなさんも、結婚式の披露宴やホテルでの宴会などのハレの席に出たとき、コースディナーの途中にシャーベットが登場した経験のあるかたは多いだろう。
どうしてここでシャーベットなの? 
と思ったこともあるのではないだろうか。
そう、食べ手にどうして? と思われてしまうようでは失格である。
 
僕にいわせれば、フランス料理などででてくるシャーベットは、palate cleansingの役目を担っている。
Palate(パレットと読む)とは口蓋のこと。
つまり、なにかを食べたあと、そのつぎにくる食べものを、よりフレッシュな味覚で味わえるように、シャーベットで口のなかをクレンジングしようというわけである。
 
たとえば、フランス料理にメニュー・デギュスタシオンというものがある。
メニューというのがフランス語でコース料理のことで(日本やアメリカでいうところのメニュー、つまりお品書きのことはcarteという)、デギュスタシオンはtastingという意味。
つまり日本の懐石料理のアイディアをとりいれて、少量ずついくつもの料理をコースで出す形態である。
 
前菜のあとに魚介類の料理がでて、それからシャーベット、その次に肉がでることがよくある。
グレープフルーツとかいちじく風味などの、ごく軽い、甘さ控えめのシャーベットが少量である。
これが口中の魚介の残味やソースのあぶら分を消して、ニュートラルの状態にして次の肉料理をたのしむことができる。
 
それともうひとつ、じつはこれが重要なのだが、温かい魚介の料理のあとに冷たいシャーベット、そしてまた温かい肉料理、というように温度によるアクセントをつけるのもポイントである。
 
ところが、ですね。
アメリカのホテルのパーティー料理などでは、前菜として冷たいサラダが出て、そのすぐあとに唐突にシャーベットがでたりする。
これはまったく意味のないことで、口のクレンジング効果も温度のアクセントもまったく無視した、単に「シャーベットを出せばカッコいいかな~」みたいな思い込みなのである。
 
食べるほうも、どうして?と思いつつ食べてしまうが、もしそれがちゃんと温かい魚介料理のあとにでてきたのであれば、「なるほど…」と納得してもらえるであろう(さもなければ、「あれ、もうデザート?」と思ってしまうかもしれないが)。
 
ここでウンチク。
シャーベットというのは、「飲みもの」という意味のアラビア語「シャルバット」が語源である。
夏まで保存しておいた雪に甘みや果物を加えたものはむかしから中国や地中海でも知られていたが、中世のイタリアでは氷に硝石や塩をくわえて温度を下げる技術が考えだされ、雪なしの氷菓がつくられるようになった。
そしてそれが16世紀、フィレンツェからメディチ家のカトリーヌの嫁入りによってフランスに伝えられた、のだそうである(『食の世界地図』文芸春秋社編)。
 
(2005年4月1日号掲載)

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