「ビール」とひとことでいっても、成分や製法によっていろいろな種類があるのは読者もご存じのとおりだが、その飲みかたにおいても負けず劣らずいろいろなものがあるのはご存じだろうか。
日本人の典型的な飲みかたは、ゴルフなど汗をかいたあとに、冷た~くひやしたビールを一気にゴクゴクと飲む。そして「ア~」とか「ンメ~」とか、ときには「サイコ~」とかなんとかいう奇声を発することが作法になっている。
ビール大国ドイツの人にいわせると、「日本人はビールを冷やしすぎる!」ということになる。
ドイツでは室温より少し低いくらいで、そのほうが麦やホップといったビールの味や香りが楽しめるという。
冷蔵庫の温度では冷たすぎる。
僕もそれは賛成で、じっさい、ドイツのビールは味や香りがふくよかなので、冷やしすぎてそれを消してしまってはもったいない。
そして泡が問題だ。
ジョッキの上部の1センチか2センチの泡が、まさにクリームのようになめらかな舌触りで、液体部分とのバランスが絶妙である。
冷やしすぎると泡がなくなってしまい、楽しさ半減ということになる。
日本人は泡の価値をみとめない人がおおいようで、グラスにビールをつぐときに、泡がたたないようにグラスを傾けてコップの内壁に垂らすようにそそぐのが常識だ。
僕のばあいは、グラスを傾けたりはせず、なるべく泡をつくる。
一方アメリカのビールは、味もそっけもなくて、僕は平均的にいって世界でいちばんまずいと思っている。
たとえば僕は、クワーズというビールが嫌いだ。
もっとも単なるクワズ嫌いかもしれないが。
それはともかく、アメリカではビンやカンから直接飲むのがカッコイイということになっているようだが、それでは泡どころかビールの香りを鼻でかぐこともできないではないか。
ビールというものに対する考え方が根本的にちがうのだろう。
東南アジアでは、だいたいどこの国でも、氷を入れて飲む。
これは当然のことながら水っぽくなってしまうが、蒸し暑い東南アジアで、喉を潤すのにはけっこう適している。
それに、屋外レストランでテーブルに出しておいたビールが温まってしまっても、氷さえあればOKということになる。
テーブルで低い温度にキープしたけりゃ、白ワインやシャンペンのように氷を入れたバケツに入れときゃいいじゃないか、と冗談半分に思っていたら、ホントにそうする国があった。
南米のパラグアイに行ったとき、野外レストランでほんとうにバケツに入れて白いクロスもかけて仰々しくビールをもってきたのには驚いた。
飲むスピードも、国によってちがう。
日本ではゴクゴク飲んで、喉越しの心地よさをあじわうのと同時に、場合によっては一気飲みなどして早いところいい気持ちになってしまおうとするが、ヨーロッパでは、チビチビ飲むのが主流である。
ドイツであちこちにある小さなバーにいけば、一杯のビールをテーブルに置いて、話に興じながら、一時間もかけてゆっくり飲んでいる人をたくさんみかける。
当然冷たくなくなってしまっているわけだが、それは一向にかまわない。
イギリスやアイルランドのパブでは、むしろ室温そのものの暖かいビール、へたすると温めたビールが好まれる。
ロシアや東欧では、ウォッカをストレートで飲みながら、カーッとなった喉をしずめるためにビールを飲む。
つまりチェーサーが水ではなくビールなのである。
とまあ、もっと書きたいこともあるのだが、誌面に限りがあるのでこの続きはまたいずれ。
(2005年5月1日号掲載)
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