所はイタリアン・レストラン。
あなたたちは、スパゲッティ・ミートソースとボンゴレを注文する。
料理が到着すると、すかさずウェイターが、「パルメザンをかけましょうか?」と聞いてくる。
さて、あなたたちはどう答えますか。
じつは僕が、むかしむかし、イタリアにまだ1度もいったことがないころ、日本のイタリアン・レストランでボンゴレをたのんで、ウェイターにパルメザンがほしいと言ったことがある。
そしたらウェイターに「海産物のパスタにはチーズはかけるもんじゃないよ」と注意されてしまった。
客がどうやって食おうが勝手だろう、とムッとしたものだが、いまおもえば、その指摘はただしい。
ウェイターが客にそういうことを言うところが、ちょっときどった日本のイタリアン・レストランらしいのだが(アメリカではそんなこと言うわけがない)、たしかに魚介類のデリケートな香りが、チーズでマスクされてしまってはもったいない。
イタリア人も、そういうことは決してしない。
粉チーズがあうのは、ミートソース(ボロネーゼ)やミートボール(これはイタリアにはないが)といった肉関係のソース。
さらには、トマトソースや、アラビアッタというちょっと辛いソースで、とくにペンネとかリガトーニなど太めのパスタ。
それから、ソースにすでにチーズの入っているアルフレッドやカルボナーラ。
もうひとつ、日本人があまり粉チーズを入れないものがある。
ミネストローネ、つまり細かく切った野菜や豆がたくさん入ったスープだ。
これこそ、僕にいわせれば粉チーズをたのしむための料理のようなもので、山のように入れて食べると、野菜とよくマッチしてじつにうまい。
粉チーズにもいろいろある。
パルメザン、イタリア語でパルメジァーノ。パルマ地方の超硬質チーズだ。
よく熟成した高級品はパルメジァーノ・レッジァーノとよばれる。
しかし僕は、パスタにふりかけるための粉チーズを自分で買うときは、パルメザンではなく、ロマーノにする。
ロマーノ(正式にはペコリーノ・ロマーノ)はパルメザンに似た超硬質チーズだが、羊の乳からつくるぶん、チーズらしい香りが少しシャープになったような、粉チーズに適した香り。
その名のとおりローマが原産だが、いまはサルディニア島などがホンバとされている。
これらのチーズはすでに粉にしたものも売っているが、かたまりを買ってきて自分で削れば、さらにいい。
ふつうのマーケットでもイタリア産を売っているので、ラベルを見てアメリカ産ではなくそちらを選びたい。
だが、イタリアに行ったときは、ぜひホンバモノを買ってきてほしい。
なぜかおなじイタリア製でも、イタリアで買ったほうがずっとうまいのである。
これらのチーズは日持ちがいいので、おみやげとして最高である。
別に特別の店にいかなくてもいい。
何年かまえ、レンタカーで旅行中に立ち寄ったガソリンスタンドの売店で、ふと買ったロマーノ、これがおそろしくうまくて、何カ月も削りながら楽しませてもらった。
飛行場の売店、これでもOKである。
数カ月は家でパスタを作るのが楽しみになることをお約束する。
(2005年6月16日号掲載)
粉チーズ、パスタの味もこれ次第
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