人気テレビ番組、『あいのり』。
なにを隠そう、僕も大ファンである。
いろいろな国の文化や習慣を体験しながら恋がうまれていく展開がじつにおもしろい。
この原稿を書いてる時点では、舞台はエチオピアだ。
エチオピアの食べものって、どんな味がするんだろう?
と思っている視聴者も多いだろう。
その答えはこうである。
まず、オカズ類はインド料理の香辛料を倹約したようなもの。
つまり野菜や肉の煮込んだものが多く、辛いものもあるがあまり多くはない。
皇帝時代の流れを汲む、手をかけた料理もある。
しかし、なんといっても特徴がある食べものは、主食のインジェラ(Injera)だ。
一見、トルティリャのようにもみえる。
テフというアワ(粟)の一種を脱穀して粉にひき、水に溶いてから、二日ほどおいて発酵させ、それから焼いたものだ。
一見トルティリャのような、と書いたが、じつはよく見るとちがうし、手触りも味もだいぶちがう。
まず見た目。
これは『あいのり』を見ただけではよくわからないかもしれないが、まず薄黒い。
そして、表面、とくに片側はたいへんデコボコしている。
次に手触り。
シトッと湿り気がある。
僕がはじめてエチオピア料理に接したとき、うーん、これは何かに似ているなあ、と思ってしばらくして気がついた。
日本によくある、紙製の、使い捨てのおしぼりである。
それもすでに一回使ったあとのもの。
インジェラが出てきたら、くれぐれも手拭きだと思って手を拭かないように。
フランス料理ででてくるフィンガーボウルの中の水を飲んじゃった、というはなしがよくあるが、それの逆になってしまう。
エチオピアという国は歴史も文化もすばらしい国で、僕はエチオピア人の友人もいて、かれらを尊敬するし、決してふざけているわけではない。
事実を述べているのである。
味は、すっぱい。
発酵させてから焼いてあるので、当然すっぱい。
もちろん、漬けものほどすっぱいわけではないが、はっきりとすっぱさを感じる。
これを手で適当な大きさにちぎり、それを手に持って肉や野菜の煮込みをつまんで食べるのである。
すっぱさと料理の味がふしぎにマッチするが、日本人にとってはかなりエキゾチックな感じのする食べものだといっていいだろう。
「キトゥフォ」という生の牛肉を叩いて延ばしたタルタルステーキに似たもの(辛い)、「ヤバグ」というマトンやチキンのカレー(辛くない)、「ワット」という煮込み料理、「ゴメン」という芥子菜の煮込み、などが代表的な料理。
それと、レンティル豆を多食する。
飲みものは、エチオピア独特のものとして、ハニーワインがある(「Tej」といって、「Te」は吸音)。
濾過したものとそうでないものがあるが、ちょっと甘くて、これもエチオピア料理の異国情緒をかきたててくれる。
さすがにアメリカ、ちゃんとエチオピア料理も食べられる。
エチオピアという国に興味のある方、珍しい食べものが好きな方、それに『あいのり』のファン、ぜひ試してみてください。
(2005年7月1日号掲載)
恋のエチオピア料理
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