るれ・え・しゃとー

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Mr.世界(るれ・え・しゃとー)

Photo by Masakazu Sekine

今年の夏はモロッコに行った、というのは前回書いたのだが、じつはその行き帰りはフランスで数日間ずつ過ごしてきた。
数十回目のフランスだが、今回のメダマはシャンパーニュ地方のランスという街のホテル。ランス(Reims)は世界に名だたるシャンペンの中心地で、そこにある、Chateau Les Creyeresというホテルに泊まることだった。
 
ここは中世の貴族の城館がホテルになっていて、フランスでももっとも有名なお城ホテルのひとつである。お城ホテルは日本にもよくあって、郊外の街道沿いなんかを車で走っているとき、1度入ってみたいなあ…といつも思うのだが、Creyeresのほうはほんとに貴族が自分の住み家として使っていたお城である。
 
豪華でおしゃれで、でも落ちついたたたずまい、部屋は19しかない。
建物はもちろんのこと、家具調度や壁にかかった絵も、ミュージアム顔負け。
サービスは上品で丁寧で、しかもお客の数が少ないからひとりひとりに行き届く。
そして、ああ、ミシュラン三ツ星のレストランと、もうひとつ、ああ、食事とともにサーブされるシャンペン。
これが典型的な、「ルレ・エ・シャトー」なのである。
 
ルレ・エ・シャトーとはなんぞや?
ルレ(Relais)は旅籠、エ(et)は&、シャトー(Chateaux)はいうまでもなくお城のことだ。
フランスに本部があるホテルとレストランのアソシエーシンで、そのほどんどはお城や地方の豪族の庄屋、貴族が狩りに使うときの館、修道院、といった歴史のある、味のある建物を使い、部屋数はだいたい20程度、
こぢんまりして快適な立地条件であることが条件である。
 
建物は古くても、バスルームなどの設備は近代的で清潔でなければならず、内装や家具調度もその地方のカラーを出したおしゃれなものでなくてはいけない。
オーナーが自らそこで経営にあたっていることも条件である。
それがサービスが親切で親密である理由でもある。
 
そしてわすれてはならないのは、そのホテルでだされる食事。
その地方の食材や料理方法をいかした一流の食事と、そしてそれにあった土地のワインを提供しなくてはならない。
加盟ホテルはフランス中に100軒以上あり、ヨーロッパには数百軒あるから、どこの地方を旅行していても、宿泊はすべてルレ・エ・シャトー、ということも可能だ。
 
僕もいままでに数十軒のルレ・エ・シャトーを泊まり歩いたが、どこに泊まっても王侯貴族になった気持ちにさせてくれて、大満足以外のものを味わったことはない。
 
ヨーロッパ以外の地域、たとえばアメリカや日本にも少数だがある。
たとえば箱根の強羅花壇。
ここは僕も泊まったことがあるが、旧皇族の別邸を温泉旅館にしたところで、箱根の情緒と山海の珍味の懐石料理がすばらしい超一流旅館である。
考えてみれば、ルレ・エ・シャトーのサービスというのは、日本の一流の温泉旅館を考えていただければわかる。
どこへ行ってもあの親切で行きとどいたものなのだ。
 
ルレ・エ・シャトーに泊まるときは、日本人の得意なスタイル、夜ホテルについて、食事してフロ入って寝て、翌朝8時にチェックアウト、というスタイルはやめましょう。
1カ所に少なくとも2~3泊、たとえ1泊しかできないとしても、遅くとも午後3時ごろまでにはチェックインし、翌日は遅く起きて朝食をゆっくりととり、そのあとは庭をのんびり散歩でもして昼までリラックスするつもりでなきゃもったいない。
 
強羅花壇でも、フランス人の夫婦が、丸2週間滞在して、付近の山々を散策したりしながら、毎晩この旅館の懐石料理を堪能して帰って行ったことがある、とオーナーが僕に語ってくれた。
さすがにルレ・エ・シャトーの楽しみかた(と経済的余裕)をわきまえているなあ、と感心したものである。
 
(2005年10月1日号掲載)

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