韓国については「近くて遠い国」とよく言われるが、言い得て妙だとおもう。
似ているところが多いからこそ違いが目立つのだろうが、今回は日本とはひと味ちがう、韓国におけるレストランでの習慣について。
もちろん個人差があり、アメリカではアメリカナイズしている人もいるから一概には言えないのだが、平均的に言って、いろいろおもしろいちがいがある。
まず、日本よりお客がぶっきらぼーだ。
店に入るときは黙って入る。
日本みたいに、「今晩は~」なんて言ったりなんかしない。
「アンニョンハシムニカ~」なんて言いながら入ってったら、セールスマンでも来たかと思われるだろう。
店員のほうはというと、韓国レストランにいったことのある読者なら知っているだろうが、「オソッセヨ~」と大きな声で迎える。
これはシチュエーション的には「いらっしゃいませ~」と同じにみえるが、じつはことばの意味がぜんぜんちがう。
「オソッセヨ!」とは「急いでください!」という意味なのだ。
なぜ店に入るなり、早くしろとせかされるのだろう。
これはもともと、寒い屋外にいる人にむかって、早く中に入って暖まりなさい、というフレーズが一般化したものだ。
でも、「オソッセヨ~」って、日本人には正反対の意味の「遅いっすよ~」に聞こえますよね。
韓国料理店に入ってこれを言われて、もうカンバンなのかと思って店を出てしまう日本人もいるらしい。
料理を注文するときには、韓国人のお客は料理名に「~をください」「~をおねがいします」などをつけることはまずない。
「ネンミョンハナ!」などと、料理名と数だけだ。
あとからなにかほしくなると、はるかかなたにいるウェイトレスにむかって、とつぜん大声をあげたりすることがある。
「ヨギムルチュセヨ!」(ここ水ください!)といったぐあいだ。
日本人ならウェイトレスが近くに来るまで待って、まず「すみません!」といってから「水ください!」とか言うのがふつうだが、「ミアンハムニダ!」(すみません)なんていったら、韓国人のウェイトレスは客がなにかこぼしたと思って、あわてて雑巾でも持ってくるだろう。
ウェイトレスをよびとめるとすれば、「ヨギヨ!」(ここ!)、または「チョギヨ!」(あのね)だ。
日本人には、韓国語の「ヨボセヨ!」(もしもし!)を知っている人も多いが、これは電話か、または道で人をよびとめるときで、レストランでは使わない。
日本の店でのこと、外国人の客が入ってくるなり、店員に「モシモシ! モシモシ!」とよびかけているのをみたことがある。
当人は「ハロー、ハロー」と挨拶しているつもりだったらしいが、とかく外国人というのはそういうまちがえをおかしやすい。
さて、韓国レストランでは、食べ終わって店を出るとき、これまた客は無言だ。
日本人なら「ごちそうさま」と言って出ていく人が多いが、韓国人で「チャルモゴスムニダ」(ゴチソウサマ)と言うのは家庭で食事によばれたときなどだけで、レストランでこれをいうと腑に落ちないような顔をされるのがオチだ。
もちろん、「サヨナラ」なんていうこともない。
言うなら「スゴハセヨ」。「その調子でがんばって」、といった意味だ。
あ、そのまえにおかねを払うとき、これもまたちがう。
払うのは、必ず年上、男性なのだ。
日本ならデート中の男女でも、割り勘にしたり、女性が払うようなしぐさをみせたり(そのつもりはなくても)、たまには女性が払ったりすることもあるわけだが、韓国では「当然」という顔で男にまかせる。
僕が学生時代に貧乏旅行で韓国を旅行したとき、知り合った女性が、食事をいっしょにすると、僕が払うのがまったくあたりまえという顔で、ありがとうも言わなかったので、鼻白んだ思い出があるが、それがかれらの習慣なのである。
(2005年12月1日号掲載)
韓式食堂習慣①
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