アメリカのレストランでは、メニューに「Osso Bucco」などと書いてあるところがよくあるが、「Ossobuco」が正しい。つまり、厳密には「オッソブッコ」ではなく、「オッソブーコ」。
Ossoとは骨のことである。
Bucoは穴。
レストランで、小さくて目立たない店のことを「Hole in the wall(壁の穴)」ということがあるが、「骨の穴」とはなんぞや?
「ドーナッツの穴はうまいかまずいか?」という議論があるが、骨の穴なんて食べることができるんだろうか。
これがうまいんですね。
ホンバはミラノ。
Vitello、すなわち仔牛のスネの部分を骨ごと切り出し、セロリ、にんじん、たまねぎ、トマト、ニンニクなどとともにワインで煮込んだ料理である。
太い骨のまわりに筋肉がたっぷりとついている。
ちなみに、動物でもサカナでも、かれらがいつもよく動かしていたところほど、うまいとされている。
ブタやチキンのモモしかり、サカナのメダマのまわりしかり、牛のベロしかり。
仔牛はそのへんを歩き回るので、スネがいちばんうまい部分のひとつである。
さて、穴のはなしだが、スネは真横に切り取ってあるから、中心に骨がある。
そしてその真ん中には、骨髄の入ったくぼみがある。
これこそ「穴」だ。
この穴にナイフかフォークを突っ込んで、中の白い骨髄をとりだして、食べてみていただきたい。
ステーキなどを食べると、牛肉の「脂身」というのはだれでもうまいと思うものだが、人によっては脂肪が体に悪いからと、そぎ落として食べる人が多い。
ところが髄というのは、脂身から脂肪分を抜き去ってうまさだけを凝縮させたようなものだから、えらくうまいし、食べても罪の意識が生まれないから、ますますうまく感じる。
肉そのものも、トロトロとして舌ざわりもやわらかく、風味がいい。
赤ワインがよくあう。
この料理のつけあわせ、というか本来イタリアでは前菜として食べるものだが、サフランで煮込んだリゾットがいい。
具はなにも入っていない、ダシとサフランの香りだけで食べさせる、やはりミラノの名物だ。
しかし、レストランで見ていると、せっかくオッソブーコを注文して、この料理はその穴を食べるものだということを知らないのか、まわりの肉だけを食べておしまい、という人がかなり多い。
それじゃあアンパンを食べてアンを食べないようなもの、ドーナッツを食べて穴を食べないようなものではないですか!
肉と骨、In carne e ossaというイディオムがイタリア語にあるが、「本物の」という意味だ。肉と骨が両方あってこそ、ホンモノだというわけである。
ちょっとむかし、いやだいぶむかしかな、日本で『骨まで愛して』というヘンな歌が大ヒットしたことがある。
この歌はヘンだけど、イタリアンレストランでオッソブーコをたのんだら、骨まで愛するのを忘れないようにしましょう。
(2005年8月16日号掲載)
オッソまで愛して
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