夏にウナギを冬にウナギを

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Mr.世界(ウナギ)

7月23日は、『土用の丑の日』。
土用の丑の日というのは、じつは春夏秋冬それぞれにあるのだが、日本では夏だけが有名になっている。
それはウナギが関連しているからだろう。
なぜこの日にウナギを食べるかというと、「夏バテに打ち勝つために」という説が一般的だが、本来は「ウ」がつくもの、つまりウリや梅干し、ウドンなども食べる日だった、という説もある。
じつは、ウナギがいちばんうまいのは、冬である。
 
スペインはガリシア地方、つまりイベリア半島の北の部分で大西洋に面したあたり。
ここの名物にアングーラス(Angulas)がある(成育したウナギはアンギーラス(Anguilas)とよばれる)。
僕にとって、スペインに冬に行くときの最大の楽しみがこれだ。
ウナギの稚魚、そうですね、1インチから2インチくらいの長さのものをたくさん、そうですね、20~30匹くらい、小さい土鍋に入れ、ニンニクとともにオリーブオイルをたっぷり入れてベイクする。
北スペインの冬は寒い。
ジュージューいいながら湯気を上げて登場するこのアングーラス、僕が初めてこれを見たのは、となりのテーブルの人が注文したのを見たときだった。
なんだあのうまそうなスパゲッティは!?
そう、細長いウナギの稚魚が、スパゲッティに見えたのである。
さっそく自分で注文して食べてみると、舌触りはまさに麺。
熱い土鍋に煮立った脂とニンニク。冬の寒さにぴったりだ。
稚ウナギの若々しくはなやいだ香りが、スペイン独特の緑の香りのオリーブオイルとマッチして、驚嘆のうまさだった。
 
ヨーロッパでは、ウナギの成魚も食べる。
僕も南フランスやスペインで食べたことがあるが、胴体を丸ごと輪切りにして、黒い皮がついたまま登場する。
これもオリーブオイルでソテーした料理が多いが、こうなるとちょっとくどくて、僕にいわせると日本の蒲焼きのほうがうまいといわざるを得ない。
 
中国のウナギも捨てたものではない。
鰻(マン)または (シャン)といい、特に上海あたりでは一般的な食材である。
これはだいたい千切りにして、ニラやモヤシなどと一緒に炒める。
皿に盛られてでてきたら、日本人にはウナギとはわからない。
この料理だけをたくさん食べるとちょっとしつこいくらい脂っぽいが、さっぱりした料理とバランスをとって食べると、このこってり感がすごくおいしく感じられる。
 
しかし、日本の蒲焼きはシンプルにしてウナギのほんとうのうまさを引き出している料理方法だと思う。
名古屋に行ったときに、時間が余ったので、駅近くのレストランで名物「ひつまぶし」を食べたことがある。つまり、ひまつぶしである。
「ひつまぶし」とは蒲焼きを細かく切ってお櫃(ひつ)に入れ、ご飯にまぶしたものだ。
僕にいわせると、蒲焼き自体は、細かく切らずにガブッと食らいつくほうが好きだ。
しかし、ひつまぶしのよさは、1杯目はそのまま、2杯目はネギやワサビの薬味を加えて、3杯目はだし汁をかけてお茶漬けに、という変化をたのしむところだ。
 
ところで、LAでこのあいだ、ふと入った韓国系ジャパニーズレストランで、Una-ju Bowlなるものを見つけて食べてみた。
Una-juすなわち『うな重』なのだろうが、もちろん重箱に入ってるわけではない。
ちかごろのLAは、Beef BowlをはじめとしてChicken BowlだのSalmon Bowlだの、丼物が市民権を得ているが、Unagi BowlならまだしもUna-ju Bowlには恐れ入った。
注文して食べてみたら、なんと鮨メシで、カイ割れなどものせてある。
つまりウナギの握りスシ、あれのボウルバージョンであった。
韓国人の日本料理の伝統へのこだわりのなさは脱帽ものだが、要はうまいかまずいか、である。
うまかった!
 
(2006年7月16日号掲載)

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