なぜだろう、コーンポタージュ

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Mr.世界(コーンポタージュ)

僕は日本に住んでいたころ、コーンポタージュが大好きで、レストランに行くとよく頼んでいた。
スープというのは、こういうものだと思っていた。
でも、あるとき考えた。
なぜ日本のレストランでは、どこへいっても、スープというと、コーンポタージュとコンソメのふたつしかないのだろう。
 
そうして、外国を旅行するようになって、気がついた。
コーンポタージュは、日本だけにあって、外国にはない!
いままでにいった世界中の何千軒かのレストランで、カリフラワーだのアスパラガスだのブロッコリーだのかぼちゃだの、いろんな野菜や豆をつかったスープがあるのに、なぜか日本以外ではコーンポタージュにただのいちどもお目にかかったことがないのである。
 
いまだにそのわけがわからないのです…。どなたかご存じの方がいたら教えてください。
おそらくは、ずっと昔にどこか日本のレストランで始めたものが人気をよび、普及したのだろう。
いまでも日本のファミリーレストランなどでは、スープといえばコーンポタージュが主流のようで、『すかいらーく』や『デニーズ』のメニューにはいまでこそほかのスープもあるが、コーンポタージュも堂々とのっている。
しかし、そもそもが、日本で、『ポタージュ』と『コンソメ』という分けかたをするところからしておかしい。
 
Potageというのは、現代のフランス語ではスープの総称だ。
特にトロトロしたクリーム状のスープをさすわけではない。もともとヨーロッパでは、古くて固くなったパンを食べやすくするために、煮汁やワインなどをかけて柔らかくして食べ、そのパンのことをsoup とよんだ。
そのうちに、その煮汁のほうをさしてスープとよぶようになって、ドイツやスペインなどではSuppeやsopaということばとして使われている。
 
ところがフランスでは、もっと上品な別のいいかたをしよう、ということになって、壷(pot)から派生したpotageという呼び名を使うようになったのである。
オニオングラタンスープのことをフランス語で Soupe al’oignon Gratineというが、まさにあのタマネギの煮汁にパンを浸したところに、
soupの語源がいまでも引き継がれているわけである。
 
いっぽう、consommというのは、consommerつまり消費する、
完成させるという言葉から派生して、肉や野菜を煮込んでエキスにした汁のことであり、クリアースープという意味につかうことはまずない。
クリアースープを強いていえばpotage claireとなる。
じっさいにフランスにいってメニューをみると、potageという語さえめったにお目にかからない。
“Creme d’asperge”「アスパラガスのクリーム風」というようないいかたが一般的だ。
 
さて、コーンポタージュにはなしを戻すと、さっき世界中でお目にかかったことがない、と書いたが、じつは例外がある。
LAにある、カレーハウスだ。日本の現代食文化をアメリカに持ってきて、アジア系のひとたちに大人気だが、そこにちゃんとコーンスープも持ち込んできてくれたのが僕としてはとてもうれしい。
なめらかな口当たりにコーン独特のほのぼのした甘い香りが心地よい。
僕はこれのためにカレーハウスに行くくらいである。
そのほかLAでは、チャイニーズ、特に広東系の店にいけば、ブツブツのままのコーンと鶏肉の千切りなどをいれたスープ、鶏絲粟米湯(チースースーミータン)がある。
 
コーヒーショップにも、ときどきコーンチャウダーという、やはりブツブツのままのコーンと、小麦粉やジャガイモを入れてゴテゴテしたスープはあるが、日本のトロッとスムーズなコーンスープとはまったくちがう。
ひょっとしたら、コーンポタージュは、隠れた日本発の食文化なのかもしれない。
 
(2006年8月1日号掲載)

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