前号に続いてチャイニーズになっちゃったが、今夏の中国旅行で発見したいろいろな食べものについて、書きたいことがいっぱいあるのだ。そのひとつが、天津の肉マンである。
内陸にある北京から、列車にのって南東つまり海のほうへ一時間ちょっと、天津は北京にいちばん近い港町で、大都会である。感覚的には東京からみた横浜だ。
この街に、狗不理(ゴープリ)というレストランがある。
ここに行きたくて天津まで出かけていった。
この店の肉マン(包子)こそが、中国人なら知らない人はいない、というほど有名なのである。
前置きは省こう。その肉マンの味はどうか?
ガブッとかぶりついて、まず驚いたのは、中からスープがほとばしったことだ。
上海の有名店、南翔饅頭店の小籠包をはじめて食べたときと同じ驚きだ。
小籠包も、一口噛んだときに口の中にほとばしるスープこそがその身上だ。
小籠包がうまい店はLAにもいくつかあり、僕もそれについてはなんどか書いた。
だが、肉マンも同じだ! というのには不勉強にして、はじめて知ったのである。
天津は今回がはじめてだ。
香港なら10数回行ったが、香港では肉マンにお目にかかったことがない。
アンマンはある。それと、甘く味付けした焼豚なんかを入れた饅頭はある。
ところがこの天津の肉マンは、まさに日本の肉マンとおなじ、肉団子入り。
そうか、ここが元祖だったんだ。
いわゆる肉マン、猪肉包子(ブタ肉団子入り)だけではなく、韮菜包子(ニラと肉入り)、素菜包子(野菜だけ)、三鮮包子(肉と蟹肉、乾燥帆立貝)などの種類があり、まわりの客は2、3種類をとって食べている。
僕もそうした。
なかでは三鮮がいちばんうまい。
スープだけではない。
なんというのであろう、あの餡を包んでいる外側の白い包み、あれがうっすら小麦色で、小麦の香りがして、完全漂白した作りものとはちょっとちがう。
その歯ごたえがすばらしく、フワッとしているのに弾力がある。
うまくない肉マンだとこの部分がネチョッとしていて、中の肉は食べたいけどこれはできれば残したい、というようなものがあるが、この狗不理のものは包みからして楽しい。
考えて見れば、パンを焼いてもその原料と作り方で雲泥の差がでるのだから、包子を蒸してもおなじことなのだろう。
もちろん、醤油などつけない。餡と包みの味のバランスがいいから、つけるとすれば辣椒醤(ラー油)だけだ。
もうひとつ興味をもったのは、『狗不理包子』の看板が天津のいたるところにでていたことだ。
小さな薄汚い店や屋台も含めて、そこらじゅうにある。
つまり、ほんものの狗不理があるお膝元で、ニセモノが堂々とその名を名乗って包子を売っているのだ。
まさにコピー文化華やかりし中国らしい光景ではあった。
しかし、『狗不理』って、へんな名前だね。どういう意味?
「狗」とは中国語で犬のこと。
ちなみに犬という文字は、「警察犬」などと複合して使うときには使うが、単独で犬を意味するときには決して使わない。
そして「不理」とは、かなわない、という意味だ。
むかし、天津に腕っぷしの強い子がいて、犬でさえ喧嘩をしてもかなわない、ということで、狗不理というアダ名(中国語で外名)がついた。
この子が成長して肉マンを売る店を始め、狗不理という名をつけた。
これがうまいので大当たりして、中国中で有名になった、というわけである。
ところで、日本では、天津といえば思いつくのは甘栗だ。
じつは天津はお菓子やスナック類で有名な街で、その中のひとつが包子であり、また甘栗なのだ。
もひとつ有名な、天津ラーメン、つまりカニ玉を乗せたソバは、いくつか行ったレストランのメニューにはみあたらなかったし、現地の人にきいてもなんのことかわからなかった、ということもつけ加えておこう。
(2006年9月16日号掲載)
驚きの天津肉マン
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