今年二回目のパリ。
10月後半というのに、25℃前後と、異常な暖かさだ。
普通だったら10度くらいなのに。
これも異常気象なのだろうか。
緯度が高いパリは、秋も深まると、夕暮れが早く訪れる。
昼間のパリも文句ないが、夕暮れのパリはうっとりする。
うっすらと青さが残る空に、高さがそろった美しいビルたちが、それぞれ下からライトをあてられて清清と浮かび上がっている。
そのビルたちの一階には、カフェやビストロが軒を連ね、赤か黄色のネオン管で控えめに綴られた店名が、マロニエの木々のむこうに見え隠れする。
よし、あのビストロでメシ喰おう!!
〝Bon soir, monsieur!〟
道路に張り出したテラスのテーブルに座る。
テラスといっても、夏とちがって、まわりをキャンバスで囲ってある。
でも今夜は暖かい。
開け放った窓から、反対側のカフェの赤いサインや、行きかう人々、車が見える。
さあ、なにを食べよう。
前菜は、「三種類のさかなのカルパッチョ」にしよう。
メインは肉にして、と…。
Entrecote(子羊の背肉のグリル)、デイジョン・マスタードソース、ソテード・ポテト添え、これがいい。
「ワインは何にしますか?」
〝Un verre de vin rouge, ‘sil vous plait!〟
そう、こういう店はいちいちワインリストを見て頭をひねることはない。
赤ワインをグラスで!
これだけで、ウェイターがいろいろあるハウスワインの中から、適当な赤を選んで持ってきてくれる。どこの産だってかまったこっちゃない。
到着した赤ワインを一口すする。
フッと笑いが漏れる。
負けるねー、かなわないよ。
三種類のさかなのカルパッチョ、なんだかわけがわからないが、おそろしく香りのいいグリーンのソースとともに美しく皿に盛り付けられている。
まったく、さかなには白ワイン、肉には赤ワイン、なんて決めつけちゃっている人がかわいそうだなあ。
つづいて登場、僕の子羊ちゃん。
もう皿の上に置いているだけで肉汁が噴出してきそうなジューシーさ。
口のなかに入れれば、まさにほとばしる肉汁。かすかに乳の匂いがする。
日本の霜降り肉が最高と思っている人からすれば、びっくりするような歯ごたえ、心地よい弾力。
世界最高のフランスのバターでソテーして、ほんの少し角が焦げたポテト。
これ以上のいい香りがあるだろうか。
〝Un dessert?〟
もうすでにお腹は一杯。でもここでデザートを食べずに帰らりょか。
〝Jous vous recommedais un tart de poire.〟
梨のタルトがお勧めか。ちょっと重いかな。
でも秋の味覚、試してみよう。
頼んだとたん、間髪入れずでてくる。なんだ作り置きか。
サクッ。
あれ? この軽さはいったいどうしたことだ? しかもちゃんと温かい。
お勧めなので、どんどん作っているのにちがいない。
作りたてじゃなきゃ、こんなに軽く、温かいはずがない。
ここでもフランスのバター、フランスの小麦粉、フランスの梨が力を発揮している。
残念ながらLAの多くの店ででてくるタルトは、重くて甘くて、こういうふうにいかないんだよねえ。
Caféを注文。そう、店のほうも、アメリカのように、デザートと一緒にコーヒーかカプチーノを飲むか?なんて聞いてこない。
これで58ユーロ。悪くないね。
フランスの食事は三ツ星レストランでコース料理? それともカフェでオニオン・スープ?
どちらもいいけど、こういうビストロの気取らない料理、でも世界最高レベルの味、いいですねえ。
註)ビストロ=BistroともBistrotとも綴る、気軽な中級レストラン。ロシア語で「早く!」という意味で、露仏関係が密接なころ、パリに滞在していたロシア兵たちが店に入ってきて、「早く料理を持って来い!Bistro! Bistro!」と叫んだことからきている。
(2006年12月1日号掲載)
ビストロ! ビストロ!
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