アルフレッドでアルフレッドを食す

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Mr.世界(アルフレッドでアルフレッドを食す)

このあいだ、ニューヨークに行ったときのこと。
さあ今晩は何を食べようかな、とレストランのリストを眺めていて、はっと気がついた。
アルフレッドに行ってアルフレッドを食べてみよう。
イタリアン・レストランの定番メニュー、フェトゥッチーニ・アルフレッド。
スパゲッティー・ミートボール、シーザーズサラダとともに、アメリカにあってイタリアにないイタリア料理の黄金トリオといわれる料理のひとつ(僕がそういってるだけですが)。
 
ミートボールとシーザーズサラダについてはすでに書いたので、アルフレッドについてずっと書きたいと思っていた。
いや、厳密にいうと、アルフレッドのばあいは、まったくイタリアに存在しないわけではない。
 
ローマにアルフレッドという名の店があり、1914年にここではじめたフェトゥッチーニ・アルフレッドが、後述するようにアメリカに渡って有名になったのである。
イタリアには、僕の経験と知識の限りでは、この料理はこの店にしか存在しない。
 
ご存じない方のために、どういう料理かご説明すると、まずフェトゥッチーニ(Fettucine、複数形が-cini)というのは「きしめん」のように平たい5~8㎜幅のパスタのこと。
イタリアでは、そもそもこの名のパスタ自体からして、あまりメニューで見ることがない。
 
ほぼ同じものだが、タリアテッレ(Tagliatelle)というなまえではよくお目にかかる。
そしてアルフレッド(Alfredo)の料理方法だが、生クリームとバター、それにパルメザンチーズをたっぷりからめただけ、というシンプルなもの。
アメリカではそれにグリルド・チキンとかシュリンプを載せたものを出す店も多いが、本来は骨太なパスタにからませたこの三種類の乳製品のうまさを豪快に食べるものである。
 
もともとは、初代店主のアルフレッドさんが、奥さんが妊娠して食事が喉を通らない、そこでこれを作ってあげたら食べられた、という伝説に基づくものだ。
僕はまだ、つわりになったことがないので、こういう乳製品トリオがはたしてほんとうに喉を通りやすいものなのかどうかは知らないが、胎児の栄養にいいような気はしますねえ。
 
それはともかく、アルフレッド氏の息子とその友人が、ニューヨークに支店を開いたのが1977年。
これがまたたく間に大当たりとなり、アメリカ全土でイタリアンといえばアルフレッドを抜きにしてはありえないような状況になってしまった。
じつは僕もローマに行くたびに本店に行ってみようかなとは思いながら、ローマにはあまりに行きたい店が多すぎて、まだ順番がまわってきていなかったのである。
そこでニューヨークの店で食べてみようと思い立った次第。
はたして味はどうか。
 
なーーーるほど。
これはヒットするだけありますね。
さすが本家本元、ほかの店、つまり亜流のアルフレッドとはぜんぜん違う。
まずフェトゥッチーニそのものが文句なくアルデンテで、しかも弾力がある。
乳製品ソースは、よくあるような水っぽさがなく、かといってくどさもなく、パルメザンの香りが非常に力強く心地よい。
フォークにからめて持ちあげると、かなりの抵抗力をもちながらも、長く糸をひく。
 
乳製品好きの僕としては、文句なく、「うまい!」と声が出る。
今までにフェトゥッチーニ・アルフレッドを何回食べたかわからないが、本当にうまい、と思ったのは初めてかもしれない。
 
パスタというものは、スパゲッティー・アリオ・エ・オリオ、つまりオリーブオイルとガーリック味だけ、というやつもそうだが、ゴチャゴチャいろいろな具を載せずに、麺の味と食感だけを楽しむ、というのもいいものだ。
つまり日本人ならわかる、モリソバ、カケソバの世界なのである。
 
(2007年1月16日号掲載)

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