ピーマンという野菜がある。
日本人ならだれでも知ってるこの野菜、さて、英語でなんというか、普通の日本人はあまり知らないだろう。
もちろんアメリカ在住のあなたはご存じ、bell pepperですね。
それじゃ、「ピーマン」って、どこから来た名前? そもそも、どういうスペル? どうです、知らないでしょう?
peamanじゃ「豆男」みたいでヘンだし、pee manじゃちょっとキタナイし。
答えをいいましょう。これはフランス語です。
piment、発音はピマン、とマンのほうにアクセントがある。
ところが、フランスではこれは唐辛子のことを意味して、ピーマンのことはpoivronと呼ぶ。
つまり、フランス語の唐辛子とピーマンが日本に入って、どこかでごっちゃになったらしい。
まあ親戚のようなものだからしょうがないでしょう。
さて、名前の件はそれでいいと。
原産地は、というと、唐辛子とおなじくアメリカ大陸。
これはわかりやすい。
次に、ピーマンにはどんな種類があるのでしょう?
緑をはじめとして、赤や黄色、オレンジなど、まるで絵の具を塗ったかのような美しい色のバラエティーがありますね。
緑色のピーマンは、熟していないから緑なのであって、熟せば赤くなり、苦味や辛味がなくなり、甘みがでる。
それを、乾燥させて粉にしたのがパプリカである。
つまりピーマンとパプリカは同じものだったのだ。どうです、知らなかったでしょう。
もうひとつ、ピーマンとシシトウも同じものである。
もちろんシシトウは小振りの種類だが。
僕は、子供のころピーマンが大嫌いだった。
当時は緑の未熟ピーマンしかなくて、子供の舌にはおそろしく苦く感じられた。
大人は、なぜこんな苦くてまずいものを食べるのだろう、なぜ、ビールなんていう苦くてまずい飲みものを、「ウメー」とかいって飲むのだろう?
ところが、ある日突然、ん? ピーマンって、うまいなあ。
あれ、ビールもうまい! と気がついたのである。
同じような経験をされた読者は多いと思うが、僕がピーマンがうまい、と思ったのは、日本のどこかの中華料理屋で、青椒肉絲(チンジャオロースー)を食べたときだったと思う。
沖縄のゴーヤーチャンプルーもそうだが、この苦さがいいのだ。
苦さと肉の香りの不思議なマッチング、いったん「うまい」と思ったら、二度とその思いは変わることはない。
日本では中華料理の代表のひとつみたいなこの料理だが、もうひとつの代表、エビのチリソース煮が日本発の料理で中国に行っても食べられないのに比べ、この料理は中国でもポピュラーだ。
ただ、日本では牛肉を使うのに比べ、中国では牛肉より豚肉を使うことが多くて、青椒肉絲と呼ばれる。肉のなかで豚肉がいちばんポピュラーな中国では、ただ、肉といえば豚肉のことをさすのだ。牛肉を使う場合は青椒牛肉絲となる。
いっぽう、イタリアではアンティパスト(前菜)のもっともポピュラーなもののひとつで、peperoni arrostiti、僕はこれに目がない。
イタリア、特に南のほうでは、レストランに入ってすぐのところにさまざまなアンティパスティ(パストが単数、パスティが複数、パスタではないですよ)をずらっとバフェ状に並べてあることがよくある。
そのなかでも、さまざまな色のピーマンは、必ずといっていいほどおいてある。
火で焼いたあと、紙などで包んでしんなりとさせ、室温までさまして、オリーブオイルをかけたものである。
これを見ると、僕は食べずにはいられない。
大概、茄子やたまねぎも同じように調理して並べてある。
それらをたっぷりとって、白ワインとともに食す。
大人になって(ピーマンが好きになって)、幸せです。
(2007年2月16日号掲載)
ピーマンって、どんな男?
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