このシリーズも150回を越えたというのに、まだこんな大物がのこってました!
フカヒレ、中国語で魚翅(ユイチー)。
もともと潮州の名物料理とされているが、実質的には、香港の宴会料理である。
宴会料理、つまり、家族全員が集まってお婆ちゃんの誕生日を祝うとか、だいじなお客をもてなすとか、ハレの席で欠かせない食べものだ。
そこでは、ヒレの原型のままの「排翅」、つまり姿煮が注文される。
宴半ばに、これがメインイベントとして大皿にのって登場するわけだ。
言い方をかえれば、お椀で一人前ずつ注文するようなフカヒレは、「散翅」といってバラものだから、価値はずっと低い。
姿煮は見た目も豪勢なだけではなく、弾力感のある短い麺のようなヒレの筋々が、きちんと揃った方向性をもったまま口蓋をたっぷりと満たしてくれ、
エもいわれぬ快感をあたえてくれる。
僕も、日本の親兄弟や甥姪全員十数人が香港に集合して、フカヒレ宴会をしたことがある。
そういう高級フカヒレを出すような店は、当然ながらシェフも香港の一流シェフだ。
スープの味付けも、グルタミン酸だのイノシン酸だの、いわゆるウマミ成分を含んだいろいろな食材、干しアワビや鶏、火腿(中国ハム)などをたっぷり使って煮込んだ洗練の極みのようなもの。
そこに干しフカヒレ自身のウマミが抽出されるから、まさにウマミの大集合である。
そういう話を友達にしたら、「いちど食べてみたい!」というので、このあいだ10人ちょっと友達を集めてLAでフカヒレ大会をやった。
LA界隈でいちばんうまいと僕が思う広東レストランのひとつに3週間まえに予約をいれ、一皿300ドルの姿煮をたのんでおいたのである。
ワクワクする心をおさえながら前菜を食べたあとに登場したこの大フカヒレは、大歓声を浴び、感激のむせび泣きとともに友人たちの胃袋におさまったのであった。
いや、じつは彼らは二度むせび泣いた。
フカヒレは、一杯で二度楽しむことができるのである。
一杯目はそのままで食べる。二杯目は、フカヒレ宴会なら必ずテーブルに出ている赤い酢を、ほんの少したらす。
とたんに別の食べもののように味がかわる。
トロッとしたコクが消えて、サラリとなるのだが、ウマミそのものは決して消えない。
むしろウマミだけを残して周辺部分を削りとったような感じといってもいい。
さすがにそういう店は、ほかにとった香港式広東料理の数々もみなおいしく、そしてなによりも、香港式宴会をこうやってLAにいながらにして楽しむことができるということに、みんなで感謝したのであった。
(2007年5月16日号掲載)
LAフカヒレ、宴会の贅沢
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