レストランのメニューを眺めると、チキンの料理は、値段もやすいし、ビーフやラムなどにくらべて、「格下」というイメージがありませんか?
しかし、世界には、どんな高級プライムリブにもラムチョップにも勝るとも劣らない、崇高なチキンというものが存在する。
そのひとつは僕にとって、生涯に世界で食べたありとあらゆる食べもののなかでも、トップクラスの食材、フランスはブレッス(Bresse)のチキンだ。
高級ワインやフォアグラとおなじく、ボルドー近くのブレッスで生育されるニワトリには、AOCといって、フランス政府による厳格な産地と生育方法の管理がなされている。
フランスでも高級レストランのメニューでしかお目にかかることがないこのチキンは、値段もしっかり高いし、どんなグルメをもひきつける食材なのだ。
では、味がどう違うか?
いうまでもなく、ブロイラーつまり大量生産のチキンとは比較にならない。
まずひとくち口にいれてすぐわかるのは、肉の弾力。ブロイラーのような、カサばってパサパサしたものではなく、歯に心地よいクッションがある。
そして噛むと染み出るジュース。
そのジュースの香りが、食べ手をして「チキンの香りってこんなすばらしいものだったんだ!」と感嘆の声をあげさせずにはおかないものなのである。
料理方法はさまざまで、クリーム煮やワイン煮といった手のこんだものから、単純にローストしたものもある。
どちらも魅力があるが、ローストした丸ごとのチキンは、そのいい香りがいちばんよく伝わってくる。
それと、肉離れ。
チキンに限らず、たとえばエビにしても、よく動き回っていたエビは、茹でたあとでも身が殻からはなれにくいという特徴がある。
ブレッスに限らず、アメリカのレストランでも、いい地鶏を使っていると、この特徴がある。
地鶏といっても、厳密にはfree rangeかcage freeかによって違いが出るし、もちろんどんなエサを食べているかは非常にポイントだ。
高級チキンには、ブレッス以外にも名古屋コーチン、あるいは以前にもちょっと書いたことがある、中国でいちばんうまいとされている海南島の文昌鶏などがあるが、どれもニワトリの品種ではなく、
育てられた地域とその方法によってのみ使用が許されるなまえである。
日本人にはチキンが嫌いという人が意外とよくいて、そのひとたちは「皮が気持ちわるい」、あるいは「臭みがいやだ」という。
ブレッスのチキンのばあい、たとえば皮をとり去った胸肉は、ゆるやかな曲線を描くピンクのかたまりで、みるからに美しいのだ。
腿や手羽になると、ブロイラーの鶏臭さが鼻につくというのはわからないではないが、ブレッスのチキンは、芳香と感じていただけるかもしれない。
魚のばあいでも、古くなったものは悪臭と感じても、少なくとも日本人ならば、良質で新鮮なアジやサバの魚らしい匂いを芳香と感じるのと同じように。
(2007年9月1日号掲載)
格上のチキン
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