過橋米線…。
なんのこと?
じつはこれ、故事からくる中華料理のなまえである。
中国の料理には、故事からくるなまえがついたものがいろいろある。
『故事』(グーシー)とは「物語り」という意味で、たとえば麻婆豆腐。
成都という街で、あばた(麻)の奥さん(婆)の作る豆腐料理がおいしくて評判になり、中国中にひろまったというはなしは有名である。
あるいは、佛跳墻。
仏教の修行をしているお坊さんでさえも、この匂いを嗅いだらいてもたってもいられなくなって垣根(墻)を跳び超えて食べにいくとされるスープである。
乞食チキンのはなしをご存じの方もいるでしょう(これについてはそのうち詳しく書きますね)。
過橋米線の故事は、ちょっと長くなるが、こうだ。
むかし雲南省で、ある人が、科挙の試験、つまり上級国家公務員の試験を受けるために気が散らないように湖のなかにある島に庵をかまえて猛勉強をしていた。
その人の奥さんが、栄養がよくて勉強しながらでも食べやすいようにそして届けるあいだに冷めてしまわないようにと、いろいろ考えて産み出したのが、
チキンスープで米の麺を煮て鶏肉と野菜を入れ、熱い油を足したヌードルスープ。
これを毎日作って、その島へ橋を渡って届けたので、ご主人はみごとに試験に合格した。
彼が合格祝いに集まった友人たちに
「わたしが合格したのは妻の料理のおかげです」といったので、友人たちは「ぜひその料理を食べてみたい、やいのやいの」ということになった。
かくして奥さんがみんなにこのヌードルスープをふるまったところ、「これはすばらしい。いったいなんという名の料理ですか?」と聞き奥さんが、とっさに「過橋米線です」と名づけ、その料理は中国中で有名になった、とさ。
過橋とは橋を超えること、米線とは米の麺である。
いま、雲南省の名物だ。
過橋米線のもっともベーシックなものは、クリアーなチキンスープに白い米の麺だから一見したところ非常に淡白。
だが、チキンや野菜のうま味がスープにしっかり染み出していて食べてみると、「あれっ?」とおもうほどいい味が出ているのが特徴だ。
いわば塩ラーメンの米線バージョンである。
米の麺だからベトナムのフォーにも似ているが地図を見てみると雲南省の南はすぐベトナムなので、そこはつながりがあるのだろう。
でもフォーより麺が太い。
いっぽう、北どなりは四川省で、そのつながりで、他の料理には味が濃く、辛いものも多い。
すなわち、濃い味の料理と、比較的淡白なこのスープヌードル過橋米線これでバランスをとるのである。
白いご飯を食べるかわりにこれを食べるのだ。
土鍋で煮込んだものもあり、なぜかほっとする食べものだ。
でもラーメンに、塩やしょうゆ、あるいはネギラーメンにマーボラーメンがあるがごとく過橋米線にも牛、豚、羊、あるいはウナギなどのグを入れたものもあるし辛いのもちゃんとある。
麺好きの日本人には、まだあまり知られていない、なかなかおもしろい食べものである。
(2007年11月16日号掲載)
過橋米線物語
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