いま、シンガポールに向かっている。
この、LAからみれば地球の裏側の地にもうなんど来たかわからないがなかなかおもしろい国である。
文化的には、マレー、中国、インド、そしてもとの宗主国イギリスがまざっている。
まざっているといっても、渾然一体となっているわけではなくそれぞれが別個のコミュニティーを保ち、食文化やライフスタイルを保っている。
シンガポールのガイドブックなどを読むと「ここに来ただけでマレーシア、中国、インドに行ったのと同じ体験ができて、オトク!」なんてことが書いてあるが、これは僕にいわせるとちょっと的がはずれている。
横浜のチャイナタウンに行ったからといって、中国に行ったことと同じにはならないのは当然だ。
でも、そこには日本に渡って来た中国人の歴史や文化が存在している。
つまりシンガポールにはシンガポール風のマレー社会がありシンガポールならではのインド社会があり、同様の中国社会があり、そしてイギリス植民地文化があり、さらにはいまやコスモポリタンな近代文化があり、それらこそがシンガポールの魅力なのだ。
そのひとつの典型が、カレー。
インド人街に行けばインドのカレーもあるのだが、マレーシアのカレーとも、もちろん日本のカレーともぜんぜんちがう、シンガポールのカレーというものがある。
ティフィン・カレーという。
「Tiffin」とはランチのことで、イギリス人がここを植民地にしていたころ、雇っていたインド人たちが仕事にカレー弁当を持って来てるのをみて、それはなんだ? ということになり、ためしに食べてみたらこれがうまい。
でも辛すぎる。
そこでマイルドに作りなおして食べてみると、うまいし、暑い気候によくあう。
ラッフルズホテルという、イギリス植民地時代のりっぱなホテルがある。
日本のむかしの帝国ホテル、ホンコンのペニンスラホテルに匹敵するものだ。
そこのレストランのランチタイムが、このティフィン・カレーで有名である。
辛くない。ぜんぜん辛くない。
完全にイギリス人好みになっているのだ。
いろんな種類があり、バフェー風に自分でとって食べるのだが、赤や黄色、いろんな色があってそれぞれ味やかおりがちがう。
日本のカレー、あるいはインドカレーを食べなれている人からすると、ちょっと不思議な味だ。
しかしこれはこれで、すでに歴史の長い食べものであり、香辛料の刺激はなくても、イギリス上流階級的なおしゃれ感覚があり、いわば帝国ホテルでハヤシライスのバラエティーをいろいろ食べているようなもので、興味深いし、けっしてまずいものではない。
そのほかのシンガポールらしい料理は、インド人街にある、興奮の味フィッシュヘッドカレー。
マレー系人の朝食、骨付き肉のゴハンをお茶のスープに入れた、目がさめるパワー・ブレックファスト、バクテー。
中国人街には、シンガポール名物の海南チキンライス。
ほかにもいろいろおいしいものや楽しい食べものもあるのでそれらについては次の機会に。
(2007年12月1日号掲載)
シンガポールの楽しさ
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