「腰花」。それって食べもの?
そう、このコーナーに登場する以上、立派な食材である。
これは、中国語で腎臓のこと。
医学用語としては、腎臓のことは中国語でも「腎臟」(シェンザン)というが、これを食べようというときには、医学用語だとどうもウマそうに聞こえない。
そこで、食材になると、「腰子」または単に「腰」という別名を使うことになっている。
腎臓が腰の近くにあるからだ。
日本語でも、ホルモン焼きなどで食べるときには「マメ」という別名を使う。
形がソラマメに似ているからだそうだ。
中国語のメニューを探すと、腰という字のついた料理がいろいろみつかる。
爆炒腰花、涼拌腰花、麻花腰子、韭菜炒腰、椒香腰片、火爆腰などなど。
「腰」に「花」がついて「腰花」となるのは、腎臓のスライスに包丁で碁盤の目のように切り口を入れて、舌触りがよくなるようにしたもののことで、それが花のように見えるので、その名があるのだ。
イカでもそうすることがよくあって、花枝という名がつけられている。
ただし、「腰果」となると、腎臓ではない。
カシューナッツのことで、腎臓に形が似ているからその名がある。
腰の料理で僕が特に好きなのは、蝦腰麺。上海の江南料理だ。
エビの剥き身と腎臓の千切りを炒めて乗せたスープ麺で、この両者の相性はすばらしい。
中国で食べるのは主として豚の腎臓だけだが、ヨーロッパ、特にイギリスやフランスでは仔羊や仔牛の腎臓も、ごく一般的な食材だ。
イギリスでは、ステーキやローストビーフのつけあわせとして、Kidney Pieという牛の腎臓と玉ネギを炒めてパイに焼きこんだものを、必ずといっていいいほど食べる。
英語では食べものになってもそのままkidneyだが、そこはウマイものに比較的無頓着なイギリス人だからだろうか。
そこへいくとフランス語は、中国や日本と同じく、「腎臓」(ラン:rein)という医学用語をそのまま料理名に使うことはしない。
「rognon」(ロニョン)というのが食材名だ。
(ただし、rognon blanc、つまり白いロニョンというと、睾丸のことになるから注意注意)そのロニョンだが、僕もフランスで何度も食べたことがある。
その味はというと…。
最初の一口を食べると、はっきりいってオシッコ臭い。
ところが、何口か食べているうちに、それがまったく不快でなくなってきて、美臭と感じるようになってくるから不思議である。
肝臓(レバー)のような「内臓! 内臓!」という臭いではなく、個性を主張しながらもまろやかで、ソースや他の食材とうまくからみあう。
そして舌触りも、肝臓のようなザラつきがなく、サラッとした感じで、歯に心地よい。
そして、いちばんの驚きは、食べ終わって、トイレに立ったときに訪れる。
食事直後のトイレというのは、得てして尿の臭いが気になったりするものだが、このときばかりは美臭になってしまうのである。
(2008年1月16日号掲載)
腰花の香り
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