最近のとうもろこしを取り巻く事情はとても嘆かわしい。
僕たちの食べものを、事もあろうに車の燃料に使うなんて。
地球温暖化はなんとかしなくてはならないのはもちろんだが、世界の人口がこんなに爆発的に増えていて、世界を旅してみれば食べものがなくて苦しんでいる人々が
あちこちにいっぱいいるというのに、そしてこれからまだ温暖化が進んでますます作物が取れにくくなり食料不足が加速するだろうに、食べものをどんどん燃料のほうにまわしてしまうのは、あまりに拙速に過ぎないだろうか。
アマゾンのジャングルが伐採されてどんどんとうもろこし畑になっているという。
これでガソリンの消費量が減ったとしても、地球のためになっているといえるのだろうか。
椰子油からつくる石鹸が環境によい、と信じている人々が多いために、ボルネオのジャングルがどんどん椰子農園にかわっているのと似ている。
アメリカのコーン畑では、見渡す限りの農場に飛行機で種や農薬を撒いたり巨大なトラクターで刈り取ったり、さて収穫したとなると、こんどの収穫はどのバイオ燃料工場に売ったらいちばん儲かるか、それとも今日は牛か豚のエサにしたほうが儲かるか、たまには人間さまに食わせてやろうか?
そんなコーンなんかだれが食ってやるもんか!
だいたいそんな、愛情のこもっていないコーンなんて、食べてみてうまいはずがない。
うまいコーンって、どんな味だったっけ?
北海道の夏の、醤油をつけて焼いたり茹でてバターを塗ったあのとうもろこし、コーンというのはああいう味がするものなのです。
じつはいま、西アフリカ沿岸のカボベルデ(Cabo Verde)島でこれを書いていて、ここのコーンのうまいのに肝をつぶしているところなのだ。
もともとポルトガル領のこの島は、料理はポルトガル料理が主体であり、コーンが現地人の食生活に密着しているわけではなかった。
でも政府が輸出産業として育てた結果、この火山性のものすごい断崖絶壁だらけの島中が、どこもかしこもコーン畑、それも斜面にびっしり段々畑、現地のおじさんやおばさん、そして子供たちが崖にへばりつくようにして一所懸命手を入れ育てている。
ひとつの段に一列しか苗を植えられなかったりすることもあるところだから、トラクターなんてとんでもない。
愛情たっぷりのコーンは、ここのレストランでもサラダなどにたくさん入ってでてくるが、甘くて、コーン独特の香りがたっぷり、プシプシした食感もすばらしく、食べたあといつまでも歯に快感がのこる。
コーンって、こんなにうまいものだったんだ。
地球環境のためには、もっと省エネできる余地はいろいろあるでしょう。
ほかのものを燃料にする技術開発も早く進めてほしい。
コーンは世界の人々の胃袋に入れてほしい。
いよいよ環境問題が加速してきた2008年の正月、カボベルデでコーンを食べながら、こんなことを思っています。
(2008年2月1日号掲載)
嘆きのコーン
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