パフェ。
なんと外国的で、柔らかい響きのことばだろう。
僕はこどものころから、あの甘くて豪華なアイスクリーム・パフェの味とともに、その名が好きだった。
デパートの食堂の定番だった。
デパートの上の階には、いまのように名店街としていくつものレストランが軒をならべていたのではなく、大食堂がひとつあって、和洋中からさまざまな喫茶アイテムがところ狭しと入り口のガラスケースに
陳列されていたものだった。
その中で、どれよりも目をひいたのがパフェである。
背の高いグラスに詰め込まれたアイスクリーム、苺にバナナ、それにチョコレートシロップと泡立ったクリーム…。
母親によく連れて行ってもらった東横デパートの大食堂で、カレーライスとパフェの食券を買ってテーブルにつき、ワクワクしながら両者の到着を待ったのを思い出す。
さて、ここで質問です。
パフェのスペルは?
Pafe?
日本の喫茶店のメニューにそう書いてあって、笑ってしまったことがある。
正しくはParfait。
フランス語で、Perfectという意味だ。
つまり、アイスクリームに果物にチョコレート、etc.という「完璧なデザート」というところからきている。
英語でも「Parfait」といい、Ice Cream Sundae、Banana Splitなどとよばれることもあり、それぞれ別モノといえなくもないが、境界ははっきりしていない。
ちなみにSundaeというのは日曜にゆっくりと楽しんで食べるデザートということで、Sundayから来ているらしい。
つまり日本のようにただアイスクリームにシロップをかけただけではなく、パフェに近い。
さて、それではフランスにはParfaitはあるのだろうか。
ある。しかも二種類ある。
だが、いずれもアメリカや日本のパフェとはちがう。
ひとつはアイスクリームをカチカチに凍らせたもので、「完全に」凍っているからその名がある。
もうひとつ、意外に思われるかもしれないが、パンに塗るスプレッドで、パテと同じようなもののことも、Parfaitとよぶことがある。*
その理由ははっきりしないが、たぶんパンという単純な食材を完璧な料理にしてしまう力があるからではないだろうか。
まさにそのParfait、フォアグラのパフェを、先日メルローズのProvidenceで食べた。
これはまさに驚きの一品だ。
フワッとしたピンク色で、一見すると苺ムースのようにみえる。
パフェという柔らかい語感にもまさにぴったりである。
ミシュラン星つきレストランならではの、すばらしい独創性、しかも奇をてらっただけでは決してない。
いっしょに食事した友人たちがみな、これをパンにぬり、舌にのせたとたん、それまでワイワイ言って賑やかだったテーブルが一瞬沈黙してしまった。
しばしショックで声がでないのだ。
まさにこれぞparfait。
完璧そのものの芸術的な味とプレゼンテーションであった。
(2008年4月1日号掲載)
完璧なるパフェ
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