世界でいちばんオレンジジュースがおいしいのはどこでしょう。
僕の家です。
我が家の庭には、巨大なオレンジの木が立っていて、一年を通じて数百個の実がたわわになっている。
しぼってジュースにするのはけっこう手間がかかるので、毎日飲むわけではないが、友人が家に泊まったときの朝など、庭に出てこの木からオレンジを摘んできて、朝食用のジュースをしぼる。
そして、「俺んちのオレンジです」、とか言いながら、友人に飲ませる。
このオレンジジュースが、オレンジらしい風味と甘さにおいて、目が回るほど強烈なのだ。
友人はだれもが、「こんなおいしいオレンジジュースを飲んだのは初めてだ!」と感激する。
しぼりたてのジュースがおいしいのは当然として、もぎたてのしぼりたて、というダブルたてのところがさらにこのジュースをおいしくさせるのだ。
しかし実はそれだけではなく、我が家のオレンジジュースには、友人には隠している大きな秘密がある。
うちのオレンジの木は、セプティック・タンクの近くに立っている。
セプティック・タンクというのは、トイレなどの排水を溜める浄化槽のことで、地中に埋めてある。
水分はそこからいつもまわりの地中にしみ出るようにできているが、しみ出るのは地中だから、臭いはまったくしない。
槽の中には残留した固形物だけが溜まっていって、2年にいちどほど業者にとりに来てもらうわけだ。
つまり、早いはなしが、日本でもむかしは田んぼや畑にはかならずあった、肥え溜めである。
うちのオレンジは、肥え溜めからしみ出たコヤシで育っているのである。
このことは、友達には決して言わない。
なにも知らない友達はゴクゴクと飲んでくれる。
もっとも、根から養分を吸っているだけで実に直接コヤシを撒いているわけではないから、べつに不潔なことはないのだが。
そもそもオレンジジュースは、世界の中でもカリフォルニアがいちばんと言っていい。
ホテルの朝食などでは世界中でオレンジジュースが用意されているが、カリフォルニアほどうまいところはない。
カリフォルニアの野菜や果物には、意外とおいしいものが少ないが、これは例外と言っていい。
しかも安い。
日本のホテルの喫茶ルームなどでたのむオレンジジュースが一杯千円以上とか、けたたましく高いのはむかしからいまでも同じで、あれだけはいったいなぜなのかよくわからない。
新鮮なジュース用オレンジ(みかんではなく)が希少価値だったむかしの日本の名残なのだろうか。
おもしろいのは韓国でもやはり同じ現象があり、オレンジジュースがバカ高い。
韓国という国の文化は、ものによっては日本とそっくりで、ものによってはまったくちがうところがおもしろい。
なにはともあれ、おいしいオレンジジュース が飲みたい方は我が家へどうぞ。
(2008年5月1日号掲載)
オレンジジュースの秘密
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