地球上には、おおまかにいって、箸を使って食事をする人々が三分の一、ナイフ・フォークを使う人が三分の一、残りの三分の一が手づかみで食事をする。
手づかみで食べるというのは、かならずしも文明が届いていないから、あるいは箸やナイフ・フォークが手に入らないから、というわけではない。
それがベストの食べかただから、と思っている人もたくさんいるのだ。
インド人はそのいい例である。
カレーをゴハンにかけ、ピチョピチョになったところに指をつっこんでコチョコチョとこね、指先に乗せて口に運ぶ。
僕自身、カレーとゴハンをまぜながら、この感覚、なんかに似ているなあ、と思ったことがある。
なんだろう…。
しばらく考えてわかった。
子供のころの、泥遊びだ。
泥に水をかけてコネコネして、ダンゴを作ったり、山の形に盛ってトンネルを掘ったり。
あの水分を含んだピチョピチョしたものを指先でこねくりまわすって、楽しいですよね。
というわけで、インド人もこれがいちばん、ものを食べるのにおいしい食べかただと思っているわけだ。
インドに行って、知り合いの人といっしょに食事をしたとき、「近頃の若い者は、ナイフとフォークなんか使って、食べものをおいしく食べる方法を知らん」と嘆いてたのを思い出す。
スシだって、いまの日本人には箸を使って食べる人が多いが、僕は手にとって食べるのが好きだ。
その方がご飯の感触やぬくもりが手に伝わって、口に入れる前からおいしさがわかると思うんですけど。
おにぎりだって、ナイフとフォークで切り分けながら食べたらおいしさははるかに下がる。
フィリッピンには、豚を丸一匹姿焼き、という料理、「レチョン」がある。
パーティーなどで、これをテーブルにドーンと置いて、みんなで食べる。
ローストビーフのように誰かがまずナイフとフォークで切り分ける、なんてことはせず、全員で囲んで手づかみで食べるのがいちばんということになっている。
豚の腹の中に指をつっこんで、指の感触をもとにうまそうな部分を探し、もぎ取って、口に運ぶ。
そのもぎとった部分を口に入れると、ものすごくうまい部分だったり、そうでなかったりして、食べてみるまでわからないときもある。
これって、まさに宝探しの楽しさだ。
中近東でも、ハレの席では、羊の丸焼きを囲んで、同じように手探りで食べたいところをみつけて食べる。
ピチャピチャと音をたてながら、羊や豚の肉を自分の手でじかにまさぐるのは、特別の醍醐味である。
これも、なにかに似ているなあ、と気がついた。
外科医の手術!
豚や羊の内部は、暖かくてとても柔らかい。
きっと人も同じなのだろう。
もちろん、僕は自分で経験したことはないし、お医者さんは人の命をあずかって、それはそれは真剣に慎重に行っていることには違いないのだが、もしかしたらそこにはある種の快感があるのではないか、と思うのだが、どんなものだろう?
(2008年7月16日号掲載)
手づかみのすすめ
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