イチゴの世界

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Mr.世界(イチゴの世界)

僕はフランスに行ってレストランで食事をしたあと、二回に一回は食べるという、大好きなデザートがある。
イチゴだ。
イチゴそのままである。
 
フランスのデザートは、アメリカのように小山のようなチョコレートケーキが出てきたりすることはなく、プディングのようなもの、アイスクリーム、
あるいはチョコレートや果物、リキュールなどを巧みに使った、芸術性あふれる暖かいデザートなどが多く、いろいろな楽しみがある。
でも、メインコースの分量が多かったり、そのあとにチーズを食べたときなどは、もうすでにかなりお腹が一杯。
デザートはパスしてもいいのだが、やはりコーヒーのまえにちょっと甘いもの口に入れたい、ということはよくあるものだ。
 
そこで、僕はウェイターに「イチゴ(des fraises)はありますか?」と聞く。
答えはどの店でもまず「Oui!」である。
メニューにのっていなくても、だ。
サイドに、ホイップした生クリーム(chantilly)を頼む。
これも、どの店でも必ず用意してあるといっていい。
アメリカでもホイップクリームはどこにでもある。
でもほとんどのばあい、あの赤い缶に入ったヒゲそりクリームみたいなやつ、あれをジョワッとかけられると味も香りも情緒もなにもあったものじゃない。
フランスのレストランなら、ちゃんとキッチンで生クリームからホイップしたものだ。
 
イチゴは、僕にいわせればフランスが世界一だ。
小粒で、色が真っ赤である。芯まで赤い。
そして、口に入れると柔らかい。フニャッとした柔らかさではなく、上と下の口蓋で挟むとわずかに抵抗があり、押し潰すとまるでミカンのひと房を食べたときのように、突然汁が口の中じゅうにほとばしる。
そして、これぞイチゴ以外のなにものでもない!! という香りが口の奥から鼻を駆け抜ける。
甘い!
そしてchantilly!
アメリカでは絶対にお目にかからないといっていい、すばらしい香り。
僕は生クリームを買ってきて自分でいろいろトライしてみたが、決してあの香りはでない。
牛乳そのもの、ひいては牛のエサが違うのである。
これだけで、いかなるフランス一流シェフにもまけない、すばらしいデザートである。
アメリカのイチゴは、マーケットで買ってくる大量生産ものは、得てして外観こそ赤いが、薄皮の内側は真っ白で甘さも香りもまったくないに等しい、というものがよくある。
 
しかし、オレンジカウンティーなどの道路端にある小規模畑でとれた手作りっぽいイチゴには、とてもうまいものがある。
そして日本のイチゴ、これもフランスのものに匹敵する品質である(chantillyがないのが残念)。
日本では中が白いのに甘さと香りがすばらしいイチゴも食べたこともある。
かならずしも色と質は一致しないようだ。
イタリアもうまい。夏のfragoliはすばらしい。
世界のイチゴをいろいろ食べ歩くのは楽しいものだ。
これぞ一期一会。
 
(2008年8月16日号掲載)

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