いま台湾に来ている。
台湾と言えば、シンガポールとならんで屋台料理のメッカだ。
もちろん中国各地の料理をだすすばらしいレストランはたくさんあるけど、台湾に来るとどうしても足が向いてしまうのは屋台街だ。
B級グルメというのは誰が発明したことばだか知らないが、言い得て妙だ。広東や山東の繊細にして美味、高級感のある料理は言うまでもないが、素朴な屋台料理の食べ歩きも楽しい。
台北の夜市、つまり屋台街に足を踏み込むと、日本のお祭りの縁日のような雰囲気で、気分がワクワクしてくる。
連れたちが、それぞれ好きな屋台に出向いて、一品一品食べたいものをとってくる。君はそれにしたか、ぼくはこれだよ。
一品には限らない。二品でも三品でもいい。
なんてったって、値段が安い。
それに、早い。ファーストフード以上だ。注文というよりは、言ったとたんにもうできてる。
味付けは、繊細ではなく荒削り、こってはなくさっぱり、複雑ではなくストレート。
この味こそが、じつはアメリカなど外国に住んでいる台湾の人たちが、「家郷菜」、つまりふるさとの味、おふくろの味とよんで懐かしがる味なのだ。
LAにいる僕の友人の台湾人は、「料理は醤油と味の素だけで味付けするのがいちばん!」と断言する。あとは素材の味というわけだ。その人の家でご馳走になると、ほんとにそうやって味付けしている。
料理はたくさんありすぎて紹介しきれないが、たとえば「甜不辣(テンプラ)」は、天麩羅ではなく薩摩あげ。チリソースをつけるだけで食べる、素朴な味だ。
臭豆腐は文字通り臭い。発酵させた豆腐で、その排泄物に似た香りで数十メートル先からその店があるのがわかる。これを揚げて食べるのが台湾屋台の看板料理のひとつだ。食べてみるとそんなに臭くない。
日本人観光客のひときわ目をひくのがウH仔煎。鉄板でカキと片栗粉と卵をジャージャー炒めている。いわばオムレツで、カキの香りがストレートに来る。
焼きビーフンは米の麺と野菜に塩気だけのシンプルな味。これが白いゴハンのかわりになって醤油味の料理とのバランスがいい。
牛肉麺や担仔麺、阿宗麺線などのソバ類も種類がすごく多いが、いずれも日本のラーメンのようにトンコツで煮込んだこってりスープというものではなく、トマト味などの単純なスープだ。でも、八角や香菜、揚げたエシャロットなどの香りでパンチを加えるのが台湾スタイルである。
豚の内臓や血を使う料理も多い。台湾人はもともと大陸から開拓民として渡って来た人が多く、食材を無駄なく使おうということなのだろう。
スープ麺や鍋に赤い色をした豆腐が入っていて、珍しいなあと思って食べてみると、豚の血を固めたものだと知ってビックリする日本人も多い。
当然、モツ煮込みも屋台の定番で、これも醤油だけの単純な味付けにモツ自身のうまみが加わったものだ。
というわけで、すべて単純な料理だけに、「A-うまい!」というよりは「B-楽しい!」に重点をおいた、そんな料理たちである。
(2009年1月16日号掲載)
台湾B級グルメ
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