(2022年11月16日号掲載)
元海兵隊という異色の経歴を持つ、売れっ子俳優
この11月でもう39歳というアダム・ドライバーだが、その偉丈夫(いじょうふ)然としたルックスと、すでに『Marriage Story 』(2019)、『BlacKkKlansman』(2019)で2回もオスカー候補になった業績などから、もっと年上にも見えてしまう。”理知的キアヌ・リーブス”または”イースター島のモアイ像”などと言われるが(!)、TVシリーズ『Girls』(2013)出演から数回会っての印象は、”キアヌと同じぐらい目的に向かってまっしぐら”の直行型、そして、とびきり魅力的な偏屈人間と思えてきた。何しろ行動力がすごい。
「高校時代に俳優になりたいと思い始めてジュリアード(名門音大)を受けたのだが入れず。そうこうしているとあの9・11の悲劇が起こり、僕は海兵隊に入隊したんだ。アメリカを守りたい気持ちでいっぱいで、純粋だった。耳が並外れて大きいのが僕ともう一人いて、”ダンボ”なんて呼ばれたりもしたね。
訓練には精を出し、優等生に近かった。肉体改造のために朝食では卵6個、昼食ではローストチキンを丸々1羽食べたりもしたね。しかし、イラクの戦地に派遣される数日前、バイク事故で胸骨を折って入院。激しく抵抗したけれど、除隊させられてしまった。同僚たちが戦地で命を賭けているというのに僕はブラブラしていて、強い罪悪感に襲われたよ」。
その後、晴れてジュリアードに入学・卒業したアダムは、「軍基地に芸術を」というアイデアを思い付き、実行。スーザン・サランドンなどをアドバイザーに迎えて基地での演劇を開催するようになったのは、戦友たちへの償いでもあった。
撮影中は役にのめり込み、日常を忘れがちになるそうだが、撮影が終わって役を脱ぎ捨てるプロセスについては、こう話してくれた。
「僕はクランクアップすると、即座に何もかも忘れるという技を身に付けてきた。トイレでフラッシュするように、ザザーッと流してしまう。それから、自分が出ている映画は絶対に見たくない。自分のみっともなさが際立って見えるし、もう修正が不可能だという事実に耐えられないからね」。
まもなくマイケル・マン監督の意欲作『Ferrari』に、イタリアのレース王、エンツォ・フェラーリの役で登場する。
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