(2023年6月号掲載)
タフな女優魂を持つオスカー女優
新作『Armageddon Time』(2022)で、アン・ハサウェイは1980年代のユダヤ人家庭の母親を優しく、毅然と演じている。いつものリッチで華やかな女性の役ではなく、ひたすらに息子をいたわり家族の世話に専念する、ショートカットの地味な女性の役なのだが、観客の想いをグッと引き寄せる強い存在感を画面から放出しており、まさに演技力で勝負しているのである。
「脚本を読んだ時は本当に感動したの。ジェームズ・グレイ監督の実母がモデルの役ということで責任重大だったけど、アメリカンドリームを追う息子を懸命にサポートする母親に心を動かされたわ。アンソニー・ホプキンスと共演する機会にもエキサイトしたけど、実際の現場では緊張してセリフを棒読みしてしまったり…。まだまだ女優として未熟なのよ」と、謙虚なコメントをしているが、彼女の女優魂はつとに知られている。
『Les Misérables』(2012)のファンテーヌの役作りのために、既にスリムな体を25ポンドも減量。さらに髪を坊主にした努力も実り、晴れてアカデミー助演女優賞を受賞した。そして、何とアンが8歳の時、元女優である彼女の母親が同じ役を演じた舞台を観ていたという、劇的な事実も知られることとなった。
初めてアンに会ったのは、『The Princess Diaries』(2001)の時。当時19歳だったアンは、本物のお姫様のように品があってかわいらしかった。「憧れのジュリー・アンドリュースと共演できた上に、英国のしきたりや礼儀作法も優しく教えてもらえて、彼女のおかげで何とか王女役をやり遂げました。この役のために大学を中退しなければならなかったけれど、学校にはいつでも戻ることができるし、女優としてのチャンスをものにしたかったの」と、名門ヴァッサー大学に通っていた才女のアンは、さわやかな笑顔で答弁していた。
人気映画『The Devil Wears Prada』(2006)の頃からアンはぐんと成長して、王女様から一人前のタフな女優として安定したスタンスを見せるようになり、『Love & Other Drugs』(2010)ではヌード場面にさえ挑戦した。さらに、インタビューなどでも、プロらしいハキハキとした答弁をするようになったのである。
私生活でも、2人の男の子の張り切りママの役を勇ましく演じているに違いない。
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