(2019年1月16日号掲載)
40ポンド以上増量し、 有名政治家役を怪演
映画『Vice』(「副大統領」と「悪徳」の二重の含みを持つ題名)で、ディック・チェイニー(2001〜09年の副大統領)を40ポンド以上増量して怪演したクリスチャン・ベール。19年の1月で45歳になるが、12歳で『Empire of the Sun』(1987)に主演以来、続々と話題作に登場していること、妙に大人びていることから、既に50歳に近いように感じてしまう。
それにしても彼の入魂の演技には毎回度肝を抜かれる。体重の増減は恒例となっているが、実存の有名政治家の不良少年時代からアルコール浸りの学生生活、妻に叱咤激励されて成長していく過程までを、リアルにパワフルに演じ上げた。11月のインタビューに現れたベイルは、既にぐんと瘦せており、頬がこけているほどだった。
「権力というものの凄さに直面し、今まで演じた役の中でも最も精神的に堪えた役だったが、傑作だと思いたい。彼は権力欲の塊だったけど、赤ん坊にキスするなどのPRが苦手だった。セレモニーを避け、あくまで大統領の影で政治を操ることに精力を注いだ。彼を聖人と捉えるか、怪物または悪漢と捉えるかという観点は捨て、彼の目から社会を眺める習慣を付け、あくまで人間として彼を見るようにした。彼は世界を改善していると心底信じていたのだと思う。
もちろん当人に面会したかった。今まで存命の実在する人物を演じる際は必ず本人に会って、彼らの性格を皮膚から感じて役作りに役立てていたからね。彼に直接手紙を送った時は手応えがあったのだが、制作スタジオ側の弁護士たちが怖じ気付いてポシャってしまった。彼に企画を踏みにじられたら元も子もなくなってしまう。それなら下手に彼を巻き込まない方が得策だと考えたようだ。僕は政治の勉強など念入りに準備して、彼との対決を望んでいたのだがね。
体重が増えると妙に感情的になる。すぐに怒ったり、すねたり、ナーバスになったりするのが演技に影響したと思う。今回増やした体重のほとんどは脂肪で、それも精神的なアンバランスさを生み出したのではないかな。実は妻は太目の僕が好きで、理由は自分が細く見えるからなのだと。だから今は嫌われている時期なのだよ」。
と苦笑いする表情が、夫、そして父親としての彼の何とも言えない優しさを覗かせていた。
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