チャーチル役を怪演!
演技力のすごさに定評があるものの、華奢な体に小顔のゲイリー・オールドマンがあのブルドッグに例えられるチャーチル元英国首相を演じると聞くと、厚いメークでハリボテのお相撲さん みたいになるのではと危惧した。しかし、『Darkest Hour』の彼は全身全霊チャーチルそのもので、第二次大戦の危機を乗り越えていく勇姿に、我々がいとも自然に感動し、応援してしまうリアルな存在感を見せてくれた。そんな彼に2017年末、インタビューをした。
「あれほど有名な歴史上のヒーローを役者として演じてみたいと思うのと、実際に映画で演じることの間には巨大なギャップがあるからね。舞台ならともかく映画で顔にクローズアップしてゴム製の頬っぺたが見えたら、それでもう台無しだろう。自信は全くなかった。ジョー(ライト監督)が絶対にできる、心配しないで任せてくれ、と何回も激励してくれて、メークの技術も格段に上がったからまずはテストをしてみようとメークを試してみた。人工の皮膚は呼吸もできて以前よりはるかに軽くなり、顔から首にかけて自然に貼り付いて、表情も豊かにできるようになっているではないか。しかし1日4時間日余りの撮影でのメークはやはり厳しい試練だった。
チャーチルはシェイクスピアを凌ぐ50冊もの本を著し、ノーベル文学賞を受賞し、作の絵画を仕上げ、50年間も政界にいた英国の巨人だった。アメリカで言えばリンカーン大統領だろうか。僕は身をもって子どもの頃からチャーチルの偉大さを知っていた。育った家の近所はナチの爆撃の瓦礫の山だらけだったのだから。
役作りに没頭して、妻からは『チャーチルと一緒にベッドに入って、朝起きるとゲイリーが戻って来る毎日だった』と言われた。実は今でもチャーチルのスピリットが僕を訪れるのだよ。映画でも見せているが彼はかなりの泣き虫で僕も感化されたのか、よく泣くようになってしまったし。葉巻、杖、帽子、ウイスキーなど小道具を巧みに使って会話やスピーチの効果を上げていた小気味の良い役者でもあったと僕は発見したね」。
うれしそうに言うオールドマンの上着のラペルを見ると、チャーチルのピンがいぶし銀の輝きを見せていた(右上写真参照)。
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(2018年1月16日号掲載)
※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年1月16日」号掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。