(2018年11月16日号掲載)
俳優業引退も、映画への情熱は衰えず
2018年の8月に俳優引退を発表したロバート・レッドフォードの”スワン・ソング”となる映画、『The Old Man & the Gun』は、実在の銀行強盗が17回も捕まっては脱獄し、そのスリルを楽しみ、おまけに恋愛までするという痛快シニア劇。
9月のインタビューに現れたレッドフォードは、ふさふさの髪に82歳とは思えない変わらぬ整った顔立ちにスリムな体。そこかしこがむけた白樺の幹のような腕の皮膚は絆創膏だらけで、アウトドアーズマンならではだったが、何よりかなり小柄になったことに驚いた。そんな彼は、リラックスした表情で思い出を話してくれた。
「題名が気に食わないが(笑)、僕の役は実弾が入っていない銃を脅しに使うだけ。この銃飽和社会で今さら銃をバンバン撃つ役など絶対にやりたくないからね。しかし、ユーモアで銀行員に金を出させる魅力を持ったシニアの言動が新鮮だと思った。
俳優を辞めても監督や制作には携わるつもりだ。今の映画界には荒唐無稽なアクションがはびこっているが、僕はこういう砂漠のような社会だからこそ、心に訴えかける良い映画を手がけていきたい。良い映画にはまず、ストーリーが重要だ。どんなに特殊効果がすごくても、物語が面白くなければ感情移入はできないからね。そしてキャラクター、エモーションの3つが良い映画の基本条件だよ。
小さい頃、近所の映画館に行っては、マジックの世界に引き込まれていた。小学生の頃から画家になりたくて、紙があれば常に絵を描いていた。ある時、いつものように授業を聞かずに絵を描いていたら、教師にその紙を持って前に出て来いと言われた。頭上には爆撃機、地上にはインディアンを銃撃するカウボーイという僕の絵を見た教師はこう言った。『なかなか上手じゃないか。取引をしよう。しっかり勉強したら私が材料を持って来るから、週に1回、教壇で授業に出てきた場面の絵をキャンバスに描いてくれ』と。あの時、罰を受けたり絵を焼かれたりしたら僕のアートに対する意気込みは崩れ落ちていただろう。教師は僕の絵に敬意を示してくれた。だから俳優に転向後もアートへの僕の情熱は燃え続けているのだよ」。
というわけで、現在の夫人はドイツ人のアーティストなのである。
|