(2019年10月16日号掲載)
国民的人気番組の司会者を熱演!
新作『A Beautiful Day in the Neighborhood』では、優しく、慈悲深く、悩む相手を包み込んでゆっくりと苦しみをほぐす特別な才能を持ったミスター・ロジャースをハリウッド1のナイスガイ、トム・ハンクスが彼自身の人となりと演技力で素晴らしい役に作り上げている。
1968年から2001年まで放映された子ども向けの人気テレビ番組『Mister Rogers’ Neighborhood』で、ぬいぐるみとおしゃべりなどするミスター・ロジャースにびっくりするほどそっくりで、いささか不気味なほど。でも、しばらく画面を眺めていると、さすが、ハンクスの自然体の名演技で、本物のロジャースを見ているような錯覚に陥ってしまう。
「役作りの2大要素はまず衣装、それから野生の馬をならすように自分から役の人間に移っていく技術かな。僕は彼のようにゆっくりしゃべらないし、正攻法の会話はまずしない。彼は部屋の中の人々を大きな包容力で抱きしめるが、僕は目の前の人々を魅了してやろうと意気込んでしまうところが、一番の違いだろうね。
ロジャースがドアを開けて登場し、上着からカーディガンに着替えるところで、もう彼の人間味が部屋に充満する。長いこと培った彼の温かさが、カーディガンに象徴されているかのようにね。ところで彼は強い色盲で、今日は赤い色、明日は緑色とカーディガンの色を変えていたものの、彼自身には全て灰色にしか見えなかったそうだ。
以前に演じたウォルト・ディズニーの人間性がロジャースのそれと似ていると指摘された。たしかにアメリカ人としての正義感や愛国心は共通するだろうが、ディズニーは何といってもビジネスマンだから、ドル札で判断する。ミスター・ロジャースはもっと精神的な、司教のような存在だと思うね。
ロジャースは人と人を結び付ける大いなるパワーを持っていた人の話を静かに聞き、相手の苦しみを和らげる能力の持ち主だった。僕は人を笑わせたり、泣かせたり、仰天させたりする能力を持っているが、彼のようなスピリチュアルな力は持っていない。今の世の中こそ、人間を清らかに鎮める彼のような人々がもっと存在していると願いたいものだが」。
珍しくしんみりと語る63歳のハンクスだった。
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