放送作家/プロデューサー/監督 スティーブン・ネイサン

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情熱を実現した世界一幸せな人間

バッファロー出身。ニューヨークで演劇を勉強、1971年ヒット・ミュージカル『Godspell』のイエズス役で一躍有名になり、ニューヨークとロサンゼルスで舞台、映画、テレビに出演。76年テレビ『Laverne & Shirley』の脚本を書いて以来、放送作家に転身。『Everybody Loves Raymond』『Family Law』『Joan of Arcadia』など300話余りを執筆。現在『Bones』の制作総指揮者の1人として活躍中。

好きなテレビ番組の中でも、『Joan of Arcadia』はソニー撮影所で仕事をしている時に、録画を見学させてもらったので思い入れが深い。創作者はインタビューに応じないので、番組制作者なら誰でも! と思っていたら、『Bones』のパネルインタビューで、スティーブン・ネイサンに出くわし、45話で打ち切られた秀作を偲ぶことができた。

『Joan of Arcadia』には企画から関与されましたか?

ネイサン(以下N):バーバラ・ホールとハート・ハンソンに会った翌年、ホールが『Joan…』を創作。シーズン1半ばで引き継ぎを探していると、ハンソンから連絡がありました。ちょうど仕事を探していたので、ハンソンから10日ほど引き継ぎしてもらって、番組終了まで関与しました。

脚本も書かれたようですね?

N:はい、すっかり惚れ込んだ番組なので。友達の死を高校生がどう処理するかを斬新に描いた逸話が、最も印象に残っています。大学進学で離ればなれになる主人公のジョーンとアダムの不安や、深入りしない決心など、心の機微を描いた心温まる自慢の番組でした。『CSI』に始まった科学捜査ドラマ全盛期で、生きる意味を模索する女子高生の話は、繊細かつ哲学的過ぎて色褪せて見えたのでは?

宗派を越えた「心の旅」ドラマでしたね。

N:神はこういうもの、人間はこう行動すべきと説くのが通常で、「神とは何か?」から入る画期的なドラマだったと思います。日常の現象を見て、偉大な力が宇宙を司っていると認識できても、それを何と呼ぶかは個人が決めること。今、制作しているミステリー『Bones』では、ブレナン博士は無神論者、ブース捜査官は敬虔なクリスチャンと、両極端に設定してあるので、信念を貫く2人に神について議論を交わしてもらいます。

『Family Law』は、映画『Crash』のポール・ハギス、『House』のデビッド・ショアと3人で制作しておられましたが、カナダ3人組ですか?

N:私はバッファロー生まれですから、近いと言えば近いですね。ハギスとショアは『Due South』を一緒に制作したカナダ組。ハギスとは長い付き合いで、制作が決まった時に声をかけてくれました。法廷ドラマを書くのも、制作も、この番組が初体験でした。

家庭裁判所で活躍する弁護士という内容の濃いドラマで、私は大好きだったのですが、気がついたら消えていましたね?

N:キャストが若者ウケしなかったのかな?(笑)。シーズン1は、番組のカラー設定に書き直しばかり。白黒の判定でなく、灰色の濃淡を表現する自由を満喫できる番組でした。

『Bones』は今までの番組とはひと味違いますね?

N:ハンソン創作なので、飛びつきましたが、謎解きドラマは初めて。数学の問題を解くようで、苦労してます(笑)。『CSI』は精巧に創られたドラマですが、私の好みから言うと冷たいと言うか、生真面目過ぎて、息抜きがないと言うか…。どんなに深刻な問題を抱えていても、笑える一瞬があるはず。それが人間でしょ?

舞台俳優から業界入りされて、転身はどのように?

N:1977年に出た『Busting Loose』で共演した友達と一緒に書いた脚本を、創作者ロウェル・ガンツに見せたら、即座に『Laverene & Shirley』のスタッフライターに迎えられました。5年ほど映画に集中しましたが、脚本が放送されるまでの即時性が好きで、テレビに逆戻り。役者は単なる将棋の駒、欲求不満がたまる一方だったので、はけ口が書くことでした。役者から入って、脚本を書いて、プロデューサーになり、監督もして、世界で1番幸せな人間です。情熱を実現できるって、稀ですからね。

好きな番組の打ち切りは、ファンにはショックですが、創作者にとっては泣きの涙ですか?

N:馬鹿と思われるかもしれませんが、制作して放送されただけで満足です(笑)。創作の過程が楽しくて。

放送作家を目指している人に。

N:私は幸い役者から転身したので、偉そうなことは言えません。現在放送されている好きな番組のカラーを的確に表現した一話を書いて、エージェントを探すことかな。新人ライターを育てる、気の長いエージェントが理想的ですね。

[業界コボレ話]
エミー賞候補が発表された。Academy of Television Arts & Sciences(ATAS)の新選考法のおかげで、今年は晴れて第2次選考会員となり、ドラマとコメディー各10本を5本に絞る過程に参加。エミーの歴史に参加でき、この上ない名誉!
以前は地味な秀作が候補にあがると、「さすが!」と業界人を賞讃したが、番組単位ではなく、選考日に観る逸話で採点する義務があるので、欠かさず観ている番組では、「えー! 何でこの話?」と、選択を疑うことしきり。
最優秀ドラマ候補にあがった『Boston Legal』は、1年以上前に見切りをつけた番組だったが、カトリーナ被災を扱った逸話は涙を誘った。どの逸話を提出するかが決め手という裏話である。最優秀逸話ドラマ部門と呼ぶ方がふさわしい!?

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