未だに消えないテレビへの畏敬の念
Barry Garron
ミズーリ大学でジャーナリズム科卒業後、政治記者を目指し同校で政治学学士号取得。『The Kansas City Star』紙に就職し、政治、教育や消費者お助けコーナーを担当すること10年。経営学の修士号を取得、管理職への道を歩み出して1年後、常勤のテレビ評論家のピンチヒッターをして病みつきになり、以来13年評論家を務める。1998年『The Hollywood Reporter』のチーフとして迎えられた。TCA会長を務めたり、『Emmy』『TV Guide』『Broadcasting & Cable』にも投稿。
毎朝読まなければ、モグリとまで言われる名門業界誌『The Hollywood Reporter(THR)』でテレビ界を斬って10年のバリー・ギャロンは、意外にも温和な教授タイプ。テレビと共に歩んで25年、テレビに魅了され、今テレビは絶好調! と言う。熱い想いを聞いてみた。
評論家チーフの仕事内容は?
ギャロン(以下G):8割は番組評を書いたり、今巷で話題になっている現象の分析です。2割は部下1人と外部のライター1人のコーディネーション、今後の企画管理。ここまで人員削減されたのは初めてですが、また増やすという話があります。
「THR」に就職された経緯は?
G:念力、念力(笑)! 『The Kansas City Star』紙で機嫌良く働いていたのに、経営者が変わって新しい上司がテレビ嫌い。部署を変わる気もなく、転職先を探そうにも何しろカンザス。LAに引っ越し、仲間に声をかけたら、投稿を頼まれ食いつなぐこと5カ月。「THR」の前任者が辞めると聞いて応募。固い決意、夢を追う愚かさと運の組み合わせ(笑)。でも、一般大衆向けと、業界人向けの評論では雲泥の差があると、すぐに気が付きました。数少ない業界誌として、テレビ番組を商品としていかに作るか、売るか、編成するかなど、押さえるポイントが違うので、観点を変えるのに数年かかりました。
テレビを選ばれたのは?
G:テレビと共に歴史を歩み、どの業界よりも面白いと思っています。天職というほどではありませんが、「これだ! これしかない!」と。テレビへの畏敬の念は未だに消えません。
お好きな番組は?
G:『LA Law』は新しい語り口と、登場人物の描写が1つになった革新的な番組です。懐かしくて忘れられないのは『The Many Loves of Dobie Gillis』。モテようと必死のダサイ高校生ドービーに共感を覚えたから(笑)? 最近は『Damages』『The Riches』、時々やり過ぎだと思いますが『Boston Legal』も好きです。『30 Rock」『My Name is Earl』と、政治評論の『Real Time with Bill Maher』は欠かさず観ます。評論家は不平不満を並べるのが常ですが、選択肢が急増した昨今、テレビは絶好調! ワクワクします。
Television Critics Association(TCA)会長の仕事は?
G:TCAは宣伝活動とジャーナリズムの境界線を明確にした組織として、他分野の評論家に崇められています。元々、映画のジャンケット同様、番組宣伝にプレスツアーが開かれ、超豪華な接待旅行でした。私が会長を務めた91~93年は過渡期で、自費参加に切り替わり、評論する上で必要な情報を要求できる立場になりました。
「Do what you love, the money will follow」論派ですか?
G:同等の知的レベルを必要とする仕事に比べ、リサーチに時間がかかる割には評論家の収入は低いです。夢をすべて実現するのは不可能なので、夢に優先順位をつけて、上位から選ぶしかありません。大好きな仕事ができて、まがりなりにも生きていけるなら、1%にも満たない「幸せ群」に入れます。更に金持ちになれたら、良いに越したことはありませんが(笑)。
[業界コボレ話]
テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)のイベントで参加者に職業を聞かれ会話を進めていくと、「テレビは観ないから」の反応にずっこける。けしからん! それなら会員になるな! テレビへの熱い想いはどこだ? と腹が立つ。
「テレビを観るような低俗な人間と一緒にしないで!」のエリート意識か、映画の方が芸術としてレベルが上と示唆する優越感の表われと解釈していた。ギャロンに尋ねたところ、一般大衆も同じ反応だそう。しかし、彼の解釈はテレビが生活の背景の一部と化して、○○しながらテレビを観る「ながら族」は無意識にテレビを観ていて、「うろ覚え」=「ついてはいたが、観ていない」となるのではと、好意的な解釈だ。私もこれからはさらっと聞き流そうっと。