ハーグ条約

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一時帰国や離婚など家庭の諸事情により、子どもを連れて国境を越えて移動する際、双方の親の間で「子どもの連れ去り」等の問題が起こり得ます。こうした問題に対処する仕組み「ハーグ条約」についてまとめました。 
 
※このページは「ライトハウス 2024年春夏の増刊号」掲載の情報を基に作成・更新しています。

子どもにとって、国境を越えた移動は、生活基盤の急変や、一方の親との交流断絶など、望ましくない影響を与える可能性があります。ハーグ条約は、そのような影響から子どもを守るために、元の居住国に子どもを迅速に返還するための国際協力の仕組みについて定めています。

どのような場合にハーグ条約が適用されるのか?

一方の親が、他方の親の同意なく子どもを他国に連れ去った場合や、約束した期限を過ぎても子どもを他国から戻さない場合、残された親はハーグ条約に基づいて子どもの返還を求めることができます。この場合、子どもを元の居住国(常居所地国)に戻すというのが、ハーグ条約の原則です。
 
ハーグ条約は、①子が16歳未満で、②子が他国に連れ去られたことや約束した日を過ぎても戻ってこないことによって、残された親の子に対する監護の権利が侵害されており、③子の常居所地国と連れ去られた先の国が、いずれもハーグ条約締約国である場合に適用されます。両親や子どもの国籍は関係ありません。

ハーグ条約に基づく子どもの返還の流れ

残された親が、ハーグ条約に基づいて、日本からアメリカへ子どもの返還を求めた場合、日本での解決方法としては、
①父母間で、あるいは代理人を立てて話し合う
②裁判外紛争解決機関(ADR機関)を利用し、第三者に間に入ってもらって話し合う
③子の返還裁判で解決する
という3つの方法が想定できます。
 
③の、子の返還裁判の手続の中で、調停委員という第三者を交えた話し合いの場(調停)が設けられることも多く、調停で子の返還・不返還について合意ができた場合には、裁判所の決定に進むことなく裁判は終了します。
 
子の返還裁判で、子の返還が確定した場合、子どもを日本に連れてきた親には、子どもを常居所地国(この場合アメリカ)へ返還する義務が生じます。これに従わない場合、残された親の申し立てにより、強制執行に進む場合があります。裁判所の決定による強制執行には、間接強制(返還まで一定の金銭の支払いを命じられる)と、代替執行(裁判所の執行官が、子どもを残された親等に引き渡し、代わりに返還させる)があります。
 
なお、ハーグ条約の各締約国には、ハーグ条約を適切に運用するための中央当局が置かれています(表参照)。残された親が子の返還を求める場合、中央当局で援助が決定されれば、各種の支援を受けることができます。日本のハーグ条約中央当局である外務省ハーグ条約室では、援助を決定すると、残された親・連れ去った親の双方に対して、弁護士紹介、裁判資料の翻訳支援、ADR機関の紹介等の支援を行います(援助の決定とは、ハーグ条約に基づく問題解決に向けた話し合いや裁判のための支援を中央当局が行うことの決定であって、中央当局である外務省が子の返還を決定することはできません)。
 
中央当局の支援を希望する場合、残された親は、まずアメリカの中央当局に返還援助申請書を提出します。アメリカの中央当局で援助が決定されると、同中央当局による支援が開始されるとともに、日本の中央当局に申請書類が送付されます。日本の中央当局でも援助を決定すると、日本の中央当局による双方の親への支援を開始します。返還援助申請書は、日本の中央当局へ直接提出することも可能ですが、その場合、アメリカの中央当局による支援は受けられません。
 
日本の中央当局に対する援助申請の方法等については、外務省ハーグ条約室のウェブサイトをご参照ください。

子どもと出国する前には専門家・機関に相談を

子どもと一緒に国境を越えた移動をする場合には、子どもがハーグ条約の対象とならないよう、出国前に他方の親の同意を得ておくか、裁判手続で子どもの監護について整理しておくことが大切です。どのような方法があるかについて、お住まいの地域の、ハーグ条約あるいは家族の問題に詳しい弁護士等に相談することも有益です。
 
なおハーグ条約の原則は、子どもを元の居住国に返還することですが、子どもの心身に害悪を及ぼすこととなる重大な危険がある場合等、法律で定められた一定の事由(返還拒否事由)がある場合は、裁判所は例外的に子の返還を命じないことができるとされています。もっとも、例外として子の不返還が認められるケースは多くないようです。DV等の家族問題で悩んでいる方は、まずは現地の支援団体への相談をお勧めします。外務省ハーグ条約室のウェブサイトにも日本語で相談できるアメリカのDV被害者支援団体の情報が掲載されています。
 
ハーグ条約についてご不明な点があれば、外務省ハーグ条約室までご相談ください。

監修/外務省ハーグ条約室

ハーグ条約の中央当局

日本

外務省ハーグ条約室
☎81-3-5501-8466
(日本時間9:00am-12:30pm/1:30pm-5:00pm)
Eメール:hagueconventionjapan@mofa.go.jp
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html

アメリカ

外務省ハーグ条約室
アメリカ国務省児童問題部
https://travel.state.gov/content/travel/en/contact-us/International-Parental-Child-Abduction.html

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